舞台は、第二次世界大戦後のパリ。アメリカの退役軍人ジェリーは、友人である作曲家アダム、ショーマンを目指すフランス人のアンリとともに、暗い戦争の時代に別れを告げ、画家としての人生を歩み出そうと夢見ています。街中で見かけたリズに一目ぼれしたジェリーは、熱心なアプローチを続け、次第に彼女の心を開いていきますが、彼女にはある秘密が。戦時中、アンリの家族に匿ってもらっていた過去があるリズは、その恩義を強く感じ、彼と人生をともにすべきだと考えていました。「求められていることをすべきなのか、心の声に従うべきなのか。」リズとジェリーの愛の行方、そしてそれぞれの人生の選択とは……。
今回初めて、ヒロインを演じる石橋杏実さんに、舞台秘話や作品の見どころについて話してもらいました。
これまでの役と違って、意識している部分はありますか?
『パリのアメリカ人』が初めてのメインキャストで、今まではアンサンブルとして舞台に立っていたので、例えば『ライオンキング』では、シーンごとに違う動物で出るなど、一つの作品で何役も演じていました。ですが、今回は「リズ・ダッサン」という一人の女性として、最初から最後まで演じています。その人の人生そのものを描いているので、時の流れとともに、どんなことを経験して、学んだことや決意したことが、彼女にどう影響するかをなるべく伝えられるように意識して演じています。
「リズ・ダッサン」はバレリーナを目指す女性ですが、ご自身と重なる部分はありますか?
リズは戦争中、生死にかかわる生活をしていたので、重なるとは言い難いですが、私は中学生の頃に入院し、「もうバレエができないかもしれない」という状況に陥った時がありました。当時は苦しかったですが、無事に復帰でき、久しぶりに広い空間で踊った瞬間、大きな喜びがありました。リズもユダヤ人として匿われていた時は、狭い空間で踊ることすらできなかったですが、戦争が終わり、久々に何にも囚われずに踊った時の楽しさは、重なる部分があると思います。リズが一番初めに踊るシーンは、演出家からもしっかり指導されたのですが、とにかく戦争から開放されて、夢中になって自由に楽しんでいる様子を大切に踊っています。
撮影者:荒井健
役作りで大変なことはありましたか?
接点と言いますか、普段の自分に近いものがあったので、やりやすい部分はありました。リズは戦争を経験しているので、警戒心が強く、人の目を気にしながら生きています。私も人見知りで、「どんな人なんだろう」と様子を伺って、構えてしまう部分と重なり、セリフ一つとっても言いやすかったです。共感できる部分がたくさんある中で、「戦争の傷」が一番の違いになると思います。リズが抱えている戦争の傷は、本当に深く、いかに自分の体に落とし込んで近づけるかが課題であるので、そこは大変ですね。
違いとある、「戦争の傷」についてはどのように工夫をしていますか?
正直この作品の稽古に入るまで、戦争の知識はあまりなかったので、本や映画で勉強しました。特に、映画は参考になりました。匿われているユダヤ人の、いつドアが開くか分からない、見つかったら殺されるかもしれない恐怖。人が上がってくる足音や銃声の音、匿っている側の家族が、誰も匿っていない振りをする恐ろしさなどの表現が、映像として勉強になっています。イメージだけでも持っておくと全然違うので、今でも休みの日に見て、参考にしています。