3年に一度のアートの大祭典「あいちトリエンナーレ2019」が、ただいま開催中。75日間にわたって行われるこのイベントは、国内最大規模を誇り、街中でアートが楽しめることで注目され、全国各地から来場者が集まっています。四間道・円頓寺会場でひと際目を引くのが、名古屋を拠点に活動するアーティスト・鷲尾友公さんの巨大壁画。この壁画をバックに、観覧無料の日替わり音楽プログラム『円頓寺デイリーライブ』が木~日曜に行われているので、印象に残っている人も多いのでは?作品が出来上がるまでの過程など、作者の鷲尾友公さんにインタビューしました。10月14日(月・祝)の閉幕まで残すところ1カ月を切り、作品への思いを感じて、これから訪れる人はもちろん、すでに見たことがある人も再び足を運び、自分なりの作品鑑賞を楽しみたくなります。
photo / marron
鷲尾友公 PROFILE
1977年愛知県生まれ。独学で絵画を学び、イラストレーション、グラフィックデザイン、アニメーション、写真、オリジナルモチーフの「手君(TEKUN)」を用いた立体物やファッション、屋内外での壁画など、メディアや手法を限定せず、多彩な作品を制作。音楽やストリートカルチャーに精通し、日常から地続きの世界を遊び心ある筆致で描いている。近年は、自主企画「インベーダーラダトーム」などを主宰し、様々なジャンルのアーティストたちによるコラボレーションを生み出している。
壁画の制作期間は、どれくらいでしたか?
壁に描いていたのは、2週間くらいです。描き始めるとあっという間でした。壁画を仕上げてからステージを組む段取りで、天候にも左右されながらでしたが、天気が良い時は一気に進めました。準備期間の方が長くて、構想期間は大体3カ月くらいです。3月くらいにこの壁画のお話をいただいて、パフォーミングアーツや音楽プログラムのデザインなど、他のデザインのお仕事も並行して進めていましたね。最終的に台湾に行ってスタジオを借りて、壁画の大まかなスケッチを仕上げました。完成してみると、自分がデザインしたものすべて、この壁画に繋がっている感じです。
日本ではなく、台湾で制作したのは、何か意図がありましたか?
普段、制作はほとんど名古屋市内で完結することが多いですが、今までとは違う環境に身を置いてみたくて。安くスタジオを借りられたのと、自分の心境の変化を試したかったのかもしれません。あと7月に描くから、暑さ対策もありましたね。実際、台湾に滞在していた一週間は日本より涼しくて、その作戦は失敗に終わりました(笑)。
台湾で得られた気付きはありましたか?
特に大きな変化はなかったのが、正直なところですね。台北がどうだったかよりは、その結果が今の絵だったと思っています。でも、アジアならではの躍動感みたいなものは、台北で感じました。
作品『MISSING PIECE』には、どんな思いが込められていますか?
今回のトリエンナーレのテーマが、「情の時代」。言葉にするのは難しいですが、足りない“何か”を探す感じを描いています。“何か”とは、自分の中で本当はしたいと思っているけれど、恥ずかしくてできないこと、人に言えない何か、内気な人同士の助け合いだったりするかな。作品は円頓寺商店街「長久山円頓寺」の駐車場に展示されていますが、住職から「最近は行き交う人が少しずつ多くなってきているけど、もっと人を集めて活気ある商店街にしたい」という話も聞いていて。肉感のある真っ赤な4人の人物が集まっているのは、商店街の再生化ということも描きたかったのかもしれません。あと、壁画をバックにして、『円頓寺デイリーライブ』のステージに演者が立つことが前提だったので、舞台美術ということも意識しました。主張しすぎないように抑えたつもりだったけど、かなり主張しちゃってるかな〜。目線の順番も考えて、壁画の手とステージに立った演者が絡み合う感じを狙っています。来場されるみんなに観てもらうことで、ようやく意味を成すと思います。