2022.7.24sun
【名古屋の老舗銘菓】なめらかな口どけと上品な甘さが夏に合う、美濃忠の「水羊羹」
1854年に創業した「美濃忠」は、尾張藩御用の菓子屋を務めた「桔梗屋」の流れを汲み、名物の「上り羊羹」や「初かつを」などの製法を受け継ぎ、守り続けてきました。今回、特別に本店にある工房を見学させてもらいながら、専務の伊藤裕司さんに、和菓子づくりで大切にしていることや、これからのことについてお話を伺いました。
職人たちの丁寧な手仕事で、伝統の味を守る
初代尾張藩主・徳川義直公が名古屋城に入府する際に、駿河の国から同行し御用菓子を務めた「桔梗屋」。そこで長年奉公した初代・伊藤忠兵衛が、1854年に暖簾分けされて誕生したのが美濃忠です。その当時から伝わる「上り羊羹」や「初かつを」をはじめ、夏の代表銘菓である水羊羹、上生菓子、焼き菓子、最中、餡菓子などを、現在も職人の丁寧な手仕事により製造しています。
「これら和菓子の基本であり、最も重要なのが“あんこ”です。しかも、上り羊羹、水羊羹、生菓子など、それぞれに最適なあんこは異なります。そこで当店では、創業当時から受け継がれるレシピを大切に、それぞれに適した糖度や硬さの餡を炊くようにしているのです」
レシピといっても、材料の分量や作り方が事細かく記されている訳ではありません。職人たちが経験を積む中で、代々手仕事によってノウハウが伝えられてきました。
添加物は加えず、なるべくシンプルな素材で
伊藤さんに案内していただき工房にうかがうと、ちょうど水羊羹を作っているところでした。前日に炊いた小豆を使って、大きな鍋で水羊羹専用のこし餡を作り、手作業でリズミカルに型へと流し込んでいきます。「鍋に炊いた餡が沈殿して硬くならないうちに、素早く型に流し込むのがポイントです」。
こうした手仕事による伝統的な作り方に加えて、もう一つ大切にしているのが、添加物などは加えず、小豆や砂糖、小麦粉といったシンプルな材料でつくること。「そのため、日もちはしませんが、変化の激しい時代にあって、165年以上も変わらぬ味わいをぜひ堪能してください」。
冷やした水羊羹を口へ運ぶと、なめらかで口どけがよく、小豆の上品な甘さが口中に広がります。つるんとしたのど越しや、喉を通った後に鼻に抜ける小豆の香りも魅力です。
その水羊羹よりもさらに口どけがよく、小豆の風味や上品な甘さも濃厚に感じられるのが、9月下旬から店頭に並ぶ上り羊羹です。「一般的な羊羹は餡を練りながら煮詰めて作るのに対し、上り羊羹は蒸すことで固めています。そのため、口に入れた瞬間にさっと溶けるなめらかな舌触りと、鼻に広がる豊かな小豆の風味が実現できるのです」。
長年培った技術を生かし、時代に合った新たな和菓子を
美濃忠では伝統の技術を守りながら、新たな商品づくりにも力を入れています。例えば、レモンを浮かべた紅茶を表現した「紅茶レモン羹」は、新たに誕生した商品の一つ。ポイントは二層になった構造にあります。
上段が寒天を使った紅茶のゼリーで、下段が手亡豆の羊羹に。二層を一緒に味わうと、レモンの酸味とほのかな苦味が、手亡豆の羊羹の甘さとよく合い、口の中でまさにレモンティーのような一体感が楽しめます。サイズも、食べ切りの半棹サイズとなっています。
「長年、愛用してくださる常連さんのためにも、創業当時から受け継ぐ味わいは大切にしつつ、時代に合わせた新たな和菓子も提案していきたいと考えています」
和菓子の文化を次の世代に伝える試み
——美濃忠のこれまでの歩みを、改めて教えてください。
伊藤さん 1854年に、名古屋城下和泉町(現 丸の内)に創業し、明治時代には第1回帝国菓子餡大品評会や京都記念博覧会などに出品し、美濃忠の技と味を世に広めました。3代目は茶人とのつながりも深く、様々な流派で美濃忠の菓子をご用命いただきました。また、昭和20年代には、松坂屋名古屋店にはじまり、名鉄百貨店、オリエンタル中村(現 名古屋三越)に出店。5代目は、檀渓通店・平和公園店を新たに開設し、本社工場や店舗新築などを手がけました。
——その歩みを受け継ぎつつ、これから力を入れていきたいことは?
伊藤さん 尾張名古屋に和菓子文化が脈々と息づいているのは、織田信長公や豊臣秀吉公のころから、茶の湯の文化が盛んだったからだと思います。茶道と和菓子は切っても切れず、日本ならではの文化だと言えるでしょう。そんな和菓子の文化に、今の若い人たちにも気軽に親しんでほしいとの思いから、私たちは、上生菓子づくりを体験する「親子和菓子教室」などのイベントも積極的に開催しています。和菓子の伝統の味を守るとともに、茶道や和菓子の文化を次の世代に伝えていくことも、重要な役割だと考えています。
名物の上り羊羹をはじめ、水羊羹、上生菓子など、それぞれに最適な専用の餡を炊いていると聞き驚きでしたが、実際に水羊羹を作っている現場を見学させてもらい、こうした職人さんたちの丁寧な手仕事によって、伝統の味が守られているのだと実感できました。夏の銘菓である水羊羹は8月末までで、9月下旬からは創業から受け継がれる上り羊羹が登場します。そうやって季節ごとに変わる和菓子を楽しみに待つのも、四季のある日本らしく素敵だなと感じました。
美濃忠 本店
- 問い合わせ
- 052-231-3904
- 住所
- 名古屋市中区丸ノ内1-5-31
- 営業時間
- 9:00〜18:00
- 定休日
- 無休
- 駐車場
- 3台
- 支払方法
- カード・電子マネー可
- 公式サイト
- https://minochu.jp
- アクセス
- 地下鉄「丸の内駅」より徒歩で約5分
【名古屋の老舗銘菓】天然海老の風味が癖になる、坂角総本舖の「ゆかり黄金缶」
名古屋土産の定番として長く愛される「ゆかり」。1枚につき7尾の天然海老を贅沢に使い、7日間以上熟成させて二度焼きすることで、エビのうま味や風味を高めています。こうした江戸時代にルーツを持つ独自の製法から、おいしさの秘密、おすすめのアレンジ方法、注目の新商品まで、坂角総本舖の広報・森野さんと山田さんに話を伺いました。 7日間以上熟成させた後、二度焼きして風味を高める 10枚入918円 「ゆかり」のルーツは、江戸時代に横須賀(現在の愛知県東海市)の漁村で作られていた「えびはんぺい」にあります。1666年に、横須賀に御殿を建てた尾張藩二代藩主の徳川光友公は、漁師たちが近海でとれたエビをすり身にして焼き上げていた「えびはんぺい」を口にし、そのおいしさを絶賛。それ以来、徳川家への献上品となったそうです。 現在も、坂角総本舖の本店から歩いて5分ほどの場所に、その横須賀御殿の跡が残っています。 えびはんぺいをもとに、創意工夫を重ねてゆかりの原型となる「海老せんべい」を生み出したのが、坂角総本舖の初代・坂 角次郎(ばん・かくじろう)です。 一度焼きしたえびはんぺいを天日干しにして、うま味を凝縮。それを、さらに火鉢や七輪で炙り焼きにすることで、海老の香ばしさを堪能できるせんべいに仕上げました。 炭火に近い遠赤外線網焼き器で、二度焼きする様子 「今でも、基本的にはこの初代・坂 角次郎が生み出した製法を、大切に受け継いでいます」と教えてくれたのは、広報の山田さんです。現在も、海老の頭は手作業で取り除き、海老の身だけを使用。機械化された部分はもちろんありますが、一度、鉄板で挟み焼きにした後、7日間以上にわたり乾燥・熟成させ、遠赤外線網焼き器で二度焼きすることで、海老の豊かな風味と香ばしさを引き立てています。 よりサクサクに、デザインもポップにリニューアル 看板商品のゆかりに次いで、人気を誇っているのが「さくさく日記」です。2001年に登場したこの商品は、友人の家を訪れるときなどに、よりカジュアルなギフトとして使いやすいよう、一口サイズでサクサクとした軽やかな食感に仕上げられています。 この「さくさく日記」が今年の6月、さらにサクサクに、デザインもかわいらしくポップにリニューアル。気軽なプレゼントや自宅用としてよりぴったりな商品となりました。 「デザインはカジュアルですが、作り方はゆかりと同じく、海老の頭を手作業で取ったり、一度焼きしたあと乾燥熟成させたりと、手間ひまをかけ丁寧に作られています。ぜひ、海老の濃厚なうま味や、帆立の甘味とコクを堪能してください」と広報の森野さんは話します。 1枚わずか5kcal、パッケージもかわいい「姫ゆかり」も人気商品の一つ 廃棄される海老の殻を生かした商品にも注目! ――ゆかりのおすすめの食べ方は? 森野さん まずは、そのまま味わっていただくのがおすすめですが、アレンジとしては、ゆかりの上にモッツァレラチーズをのせて、オーブントースターで30秒ほど焼くのがおすすめ。溶けたチーズの上にケチャップをちょっと付ければ、ピザのような味わいが楽しめます。また、意外とバニラアイスやチョコレートなどの甘いものともよく合います。 ——新たな商品について教えてください。 山田さん 食品ではないのですが、従来は廃棄していた海老の殻をなんとか活用できないかと長年研究を重ね、今年2月「EBIKARA MIRAI(エビカラミライ)」というハンドクリームとして商品化に成功しました。海老の殻に含まれるキチンという成分は、超極細繊維(ナノファイバー状)にすることで肌にすっと馴染み、潤いをもたらします。また、ベタベタしておらず、肌に塗ってもサラッとしているのも特徴。このEBIKARA MIRAIは、オンライン通販限定のアイテムになっています。 ——最後に、これからについてお聞かせください。 森野さん 初代が、えびはんぺいをもとに作り出した海老せんべいを、「ゆかり」として商品化したのが1966年。それ以来、半世紀以上にわたり、多くの方に味わっていただける商品として成長してまいりました。先代や現代表が、繰り返し口にしている言葉が「不易流行」です。手間ひまをかけて作り上げる味は大切に守りながら、時代に合わせて変えるべきところは変えて、100年以上愛されるブランドへと育てていきたいと考えています。 WRITER SUGIYAMA 個包装になったゆかりの袋を開けた瞬間、海老の香りがふわっと広がり、噛むほどにうま味があふれ、ついつい何枚も食べてしまいます。そのおいしさの秘密は、創業当時から受け継がれた、手間ひまを惜しまない製法にあるのだと実感しました。また、海老の殻を活用したハンドクリームの開発は、SDGsにもつながる注目の取り組みだと感じました。 坂角総本舖 葵店 問い合わせ 052-932-0261 住所 名古屋市東区葵3-18-15 坂角 葵ビル1F 営業時間 9:00〜18:00 定休日 無休 駐車場 2台 支払方法 カード・電子マネー可 公式サイト https://www.bankaku.co.jp アクセス 「千種駅」より徒歩で約2分 ※掲載内容は2022年7月時点の情報です
【名古屋の老舗銘菓】食べる人を笑顔にする、青柳総本家の「カエルまんじゅうとケロトッツォ」
1879年(明治12年)に大須仁王通りで蒸し羊羹の製造を始め、数年後にはういろう作りもスタートした青柳総本家。143年の歴史の中で、名古屋名物として親しまれる「青柳ういろう」をはじめ、「きしめんパイ」や「カエルまんじゅう」、「ケロトッツォ」など、数々の人気商品を生み出してきました。 今回は広報の木下さんに、それぞれの誕生秘話やおいしさの秘密、食べ方のアレンジ方法などについて教えてもらいました。 職人の手仕事による、かわいい表情が魅力の「カエルまんじゅう」 カエルまんじゅうが誕生したのは、1989年のこと。創業110周年を記念して、青柳総本家の「柳に飛びつくカエルのロゴマーク」をモチーフに作られました。かわいらしい見た目と、薄皮生地の中にこし餡がたっぷりと詰まった満足感が相まって、カエルまんじゅうは30年以上愛されるロングセラーに。4月20日〜8月下旬までは、期間限定で「抹茶あん」のカエルまんじゅうも販売さてれています。 「実は、カエルまんじゅうの目や口は、真っ赤に熱したコテを使って、職人が一つひとつ焼き入れしているんです」と広報の木下さん。食べる人を思わず笑顔にしてしまう、カエルまんじゅうの愛らしい表情は、今でも職人の手作業によって生み出されています。 「柳に飛びつくカエルのロゴマーク」が暖簾に 木下さんのおすすめのアレンジは、カエルまんじゅうの胴の部分に切り込みを入れ、トースターで10〜20秒ほど温めてからバターを挟む食べ方。溶けたバターがこし餡と一体となり、あんバターのような味わいが楽しめるそうです。 マリトッツォ風のアレンジがSNSで話題となり商品化! カエルまんじゅう(中央/3個入432円)、ケロトッツォ ラムレーズン&くるみ(右/1個360円)、クリームチーズ&レモン(左/1個350円) このカエルまんじゅうのアレンジレシピから生まれたのが、「ケロトッツォ」です。昨年、おうち時間に楽しんでほしいと、SNSでカエルまんじゅうをマリトッツォ風にアレンジする方法を紹介したところ、販売を望む声が多く寄せられ、約1カ月という異例の早さで商品化されました。 現在、販売されているケロトッツォは、「ラムレーズン&くるみ」と「クリームチーズ&レモン」の2種類。どちらもベースになっているのは、生クリームとクリームチーズをミックスしたクリームです。その配合を何度も試し、ふんわりとした口溶けを実現しました。 「ケロトッツォの消費期限は、製造日より3日なのですが、1日目、2日目、3日目と味わいが変化していくのも面白いところ。個人的におすすめなのが、3日目。挟んだクリームと中のこし餡がよく馴染んで、マリアージュが堪能できます。一方で、フレッシュな味わいの1日目が好きという方もいらっしゃいます。ラムレーズン&くるみのレーズンはラム酒漬けになっているので、コーヒーや紅茶だけでなく、意外とお酒にも合いますよ」 身近な人へのプチギフトに最適な「Willows」 身近な人へのちょっとしたギフトや自宅用として、ういろうをより気軽に楽しんでほしいと、今年3月に誕生したのが「Willows(ウィロウズ)」です。箱の中に入っているのは、小分けタイプのういろうが2個。味もミックスベリーやマンゴー、ココナッツレモンなどフルーツ味が中心で、紅茶にもマッチします。 「食べる1時間くらい前に冷蔵庫で少し冷やして、バニラアイスやヨーグルトと一緒に味わうのもおすすめです。現在の3種類のラインナップは8月末までで、9月からは違う味わいのウィロウズが登場しますので、ぜひチェックしてみてください」 ロングセラー商品にもスポットライトを ——青柳総本家のこれまでの歩みを教えてください。 木下さん 最近ではケロトッツォやウィロウズを発売するなど、新たなチャレンジを続けていますが、実は、当社は何十年も前から様々な挑戦をしてきました。例えば、1931年から国鉄名古屋駅構内でういろうの立ち売りを開始したり、1964年には東海道新幹線の開通とともに車内販売もスタートしたり、1981年には一口サイズのういろう「四季づくし」を発表しました。ういろう自体も、あらゆる食材を使って試作をしてきました。こうしたチャレンジする社風がベースとなって、きしめんパイやカエルまんじゅうなど、青柳ういろうに続く定番商品も誕生したのだと実感しています。 ——現在、力を入れていることは? 木下さん 新商品の開発はもちろんですが、ロングセラー商品についても、もう一度、お客さまに知っていただけるような取り組みに力を入れています。例えば、この4月には、1979年に誕生した「きしめんパイ」をパッケージも含めてリニューアルしました。きしめんに使われることの多いむろあじ節のエキスと、丸大豆たまり醤油を使い、よりコクとうま味をプラス。あわせて、新商品の「台湾きしめんパイ」も発売しました。また、定番商品の「青柳ういろう」は、1箱1本入りだったものを、昨年から1箱ハーフサイズのういろう2本入りに変更。それぞれ個包装されているので、まずはハーフサイズをそのまま味わい、翌日にもう半分をアレンジして食べるという楽しみ方もできます。 今年4月に登場した「台湾きしめんパイ」 ——ういろうのおすすめのアレンジを教えてください! 木下さん 先日、朝の情報番組で取り上げられた「焼きういろう」を紹介したいと思います。作り方は簡単で、青柳ういろうの「しろ」を少し厚めにカットして、米油を垂らしたフライパンに乗せ、6面すべてをこんがりと焼くだけです。ちょっとコゲすぎかなと思うぐらい、焦がすのがポイント。青柳のういろうは国産の米粉からできているので、表面がおこげのようにパリッとなり、中がふわとろで、新感覚のおいしさが堪能できます。仕上げにバターや粗塩を少しのせてもおいしいです。ちなみに、黒砂糖を使用している「くろ」を焼きういろうにすると、カヌレのような味わいが楽しめます。ぜひ、お試しください! ——最後に、これから目指すことついて一言お願いします。 木下さん 青柳総本家では、『お菓子を通じてたくさんの人を笑顔にすること』を、常に大切にしています。これからもお客さまが思わず笑顔になるような、アッと驚くようなお菓子を作り続けていきたいと考えています。 WRITER SUGIYAMA 常にチャレンジ精神を持って新商品を開発するだけでなく、既存商品のおいしいアレンジの仕方まで、SNSなどを通じて発信するという柔軟さが、長く愛され続ける秘訣なのだと実感しました。青柳ういろうやカエルまんじゅうなどは、私もお土産として利用させてもらったことがあったのですが、こうして開発秘話を伺うことで、より親しみを感じることができました。 青柳総本家 大須本店 問い合わせ 052-231-0194 住所 名古屋市中区大須2-18-50 営業時間 10:00〜18:30(喫茶は12:00〜 ※LOは17:00) 定休日 水曜(祝日の場合は営業) 駐車場 なし 支払方法 カード・電子マネー可 公式サイト https://www.aoyagiuirou.co.jp アクセス 地下鉄「大須観音駅」より徒歩で約3分 ※掲載内容は2022年7月時点の情報です
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