2023.4.21fri
【4/28公開】映画『セールス・ガールの考現学』センゲドルジ・ジャンチブドルジ監督にインタビュー!
第20回ニューヨーク・アジアン・フィルム・フェスティバルでグランプリに輝いた話題のモンゴル映画『セールス・ガールの考現学』が4月28日(金)より全国公開。モンゴルの都市を舞台にアダルトグッズ・ショップで働く女子大学生・サロールが、オーナー・カティアやお客さんと触れ合う中で自分らしい生き方を学んでいく成長の物語です。一足先に編集部が本作を観賞。モンゴル映画のイメージを覆す新たな挑戦とその表現力に驚き!そして、主人公が自分らしく成長していく姿を見守ると共に、自由に生きるためのヒントがいっぱいで、鑑賞後は、気づいたら観ている側の私も前向きな気持ちに!そんな大注目作の監督を務めたのは、モンゴル・アカデミー賞常連のセンゲドルジ・ジャンチブドルジ監督。本作に込められた思いや撮影の裏側を直接、監督にインタビューしました。
STORY
自分の内面を開いていくという世界観を題材にしたい
――少女・サロールの成長と性を題材にした本作ですが、題材にしたいと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
センゲドルジ・ジャンチブドルジ監督 全てのクリエイター、芸術、アーティスト、映画監督もそうだと思いますが、自分の持っている世界を表現したいという欲を抱えていると思います。今回に関しては、サロールとカティアの役を通じて、自分の内面を開いていくという世界観を題材にしたいと思って作った映画。また、誰もが興味があって経験する“性”をテーマにし、誰もが必ず直面する真実として描きたいと思いました。
サロール役のキャスティングの決め手はきらきらとした“目”
――サロール役のバヤルツェツェグ・バヤルジャルガルさんは、オーディションで300人の中から選ばれたと伺いました。決め手はどこでしょうか?
センゲドルジ・ジャンチブドルジ監督 彼女は本来、実に明るくて快活で、非常に頭の回転の速い大学生。今まで映画に出演したことがなく、変な演技や役作りがない自然体であったことなど、選んだのには複数の要因があります。その中でも決め手になったのは“目”。目の力が強く、後半のきらきらとした目が彼女の本来の目なんです。前半の内向的な目のほうが演技。元々明るい子が暗い目を演技ですることはできますが、元々暗い子が後半の明るい目をする演技は非常に不自然になってしまう。そういったところで、最終的に自分の道を開いていくサロールの目を持つ彼女を選びました。
――バヤルツェツェグ・バヤルジャルガルさんは、初出演・主演とのことでしたが、初めてとは思えないほど魅力的でした。現場でのチームの雰囲気はいかがでしたでしょうか。また、アドバイスや演出などされたのでしょうか?
センゲドルジ・ジャンチブドルジ監督 撮影の時期は、ちょうどコロナ禍の時期で非常に厳しい感染対策のもとで行われました。自由に家に帰ることもできず、みんな同じ所に集まって、泊まって、そしてまた撮影に行くという環境でした。そのため、スタッフと役者の間の団結力が強まりました。演出は、監督自身が演出をつけるようなことはあまりなく、できる限り自然体で演じてほしいと思っていました。観た人の目に彼女がすごく魅力的に映ったのだとしたら、彼女が自然体で演技をすることができているからだと思います。
ヘッドフォンを付けて音楽を聴く時だけが自分の世界
――バスの車内でサロールが歌い出したり、ホテルでの音楽の使い方、お店からの帰り道、エンディングと音楽の合わせ方がとても印象的でした。音楽を合わせる際に意識したことは何でしょうか?
センゲドルジ・ジャンチブドルジ監督 音楽について着目してくださって、すごくうれしいです。音楽は演出としても一番こだわった部分で、サロールにとってヘッドフォンを付けて音楽を聴く時だけが自分の世界なんです。内向的な前半の彼女にとっても唯一の友人というのが音楽で、ヘッドフォンをした時だけ自分の世界が開かれる。そこで実際に歌い手が現れる演出も入れたり、彼女の内面の世界を描くのに彼の音楽が非常にうまく合ったとみなさんに伝わったのでしたら、すごくうれしいです。
――音楽をドゥルグーン・バヤスガランさんにお願いされたきっかけは何だったのでしょうか?
センゲドルジ・ジャンチブドルジ監督 今回、現代の若者たちが聴くロックやポップなど様々な音楽を聴きました。その中で彼が突出して良かったのは、彼の歌う世界観もそうですし、彼自身がイギリスで長く生活していたので英語の発音もすごく自然体で、英語で歌うことに無理がない。彼が歌うとスピリットの精霊のようなものを纏っているかのような感じがするところ、いわゆる歌謡曲のサビの部分を繰り返すような歌ではなく、吟遊詩人のように歌うところなど、そういったところが決め手となりました。
言葉がわからなくても、観てちゃんと理解できるように心がけている
――芸術的でありながら、現状のモンゴルを映し出すリアリティも織り交ぜられているように感じた本作。モンゴルの若い人々も共感されていました。今回リアリティさを追求する上で大切にした点、欠かせなかったものはどんなところでしょうか?
センゲドルジ・ジャンチブドルジ監督 芸術を持ちつつ、リアリティをどう保持するかに関して、やはりたくさん考えています。できる限りセリフで説明するのではなく、映像表現の映画ですから、映像表現でリアリティを見せるということをすごく大切にしています。例えて言うならば、言葉がわからなくても、観てちゃんと理解できるようにと心がけていました。
自分の人生や哲学にとってもすごく大切な言葉を本作に込めた
――カティアが放つ名言が自分らしく生きるためのヒントとなり、心に刺さりました。監督自身が人生において大切にしている言葉を教えてください。
センゲドルジ・ジャンチブドルジ監督 カティアが放った「アダルトショップはポルノじゃなくて薬局よ」や、「幸せというのはそれだけあっても見えてこない、苦しみがあってこそ幸せが見えてくる」など、この言葉がまさに私の人生の哲学の中でいつも持っているべき言葉だと思っています。幸せであっても次に苦しみが来て、苦しみの後にまた幸せが来る、これが人生であって苦しみはいつまでも続かない。いま苦しくても次の日には幸せが来るかもしれない、そういうふうに思って生きること、これが自分の人生や哲学にとってもすごく大切。
人間の複雑で繊細な内面を描く映画を作り続けたい
――今後の映画制作にあたり、どのようなものを作っていきたいですか?
センゲドルジ・ジャンチブドルジ監督 心の中にインスピレーションの波があって、テーマが心に浮かんだ時、映画が生まれます。人間の複雑で繊細な内面を描く映画を作り続けたいです。ヘンテコな映画も作ってみたいですね。モンゴルの若者のライフスタイルと人生観に少しでも触れていただけるとうれしいです。ありがとうございました。
自分らしい生き方って、大人でもわからなくなる時がある。そんな自分の解放の仕方や、自分らしく生きることを学んでいく、グローイング・アップ・ストーリーは必見!自分自身も見つめ直しながら、サロールの成長をぜひ劇場で見届けてはいかがでしょうか。
セールス・ガールの考現学
- 公開日
- 4月28日(金)よりセンチュリーシネマ他で公開!
- 監督・脚本・プロデューサー
- センゲドルジ・ジャンチブドルジ
- 音楽
- ドゥルグーン・バヤスガラン(Magnolian)
- 出演
- バヤルツェツェグ・バヤルジャルガル、エンフトール・オィドブジャムツ 他
- 公式サイト
- http://www.zaziefilms.com/salesgirl/
©2021 Sengedorj Tushee, Nomadia Pictures
【絶賛公開中!】映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』名古屋での舞台挨拶に主演・坂口健太郎さん、伊藤ちひろ監督が登壇!
4月1日(土)、名古屋駅にあるミッドランドスクエア シネマにて映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』の舞台挨拶付き先行上映会が実施され、主演の坂口健太郎さん、伊藤ちひろ監督が登壇しました。 企画・プロデュースを行定勲さんが務め、監督・脚本を伊藤ちひろさんが担当して制作された、不思議な能力で人々を癒す青年が自分自身の過去と向き合う物語。主演には、伊藤ちひろさんがあて書きしたという坂口健太郎さん。伊藤監督の感性が光る詩的な映像世界の主人公・未山を柔らかな雰囲気で演じます。キャストには、未山の前から姿を消していた元恋人・莉子に齋藤飛鳥さん。未山の恋人・詩織に市川実日子さんと、個性的な俳優陣が脇を固めます。オリジナル脚本で描かれたリアルとファンタジーが混在する「マジックリアリズム」の世界観は必見!舞台挨拶では、本作に込められた思いや撮影時の裏話を語っていただきました。その様子をレポートします。 STORY 目の前に存在しない“誰かの想い”が見える青年・未山(坂口)。身体の不調に悩む人や、トラウマを抱えた人をその不思議な力で癒やし、恋人で看護師の詩織(市川)とその娘・美々(磯村)と静かに暮らしていた。ある日、“隣”に謎の男(浅香)が見え始めた未山は、これまで体感してきたものとは異質なその想いをたどり、遠く離れた東京に行きつく。ミュージシャンとして活躍していたその男は、未山に対して抱えていた感情を明かし、更には元恋人・莉子(齋藤)との間に起きた“ある事件”の顛末を語る。未山は彼を介し、その事件以来会うことがなかった莉子と再会。自らが“置き去りにしてきた過去”と向き合うことに。やがて明かされていく未山の秘密。彼は一体どこから来た何者なのか―。 名古屋に着いてから食べた、天むすがおいしかった ――名古屋にお越しいただきありがとうございます。一言ご挨拶をお願いいたします。 坂口さん みなさん、こんにちは。未山役を演じさせていただきました坂口健太郎です。さっき名古屋駅に着いたんですけど、今日はとっても天気が良くて、こういう気持ちいい時にこういう作品を選んで先行上映会にいらしてくれて、本当にありがたいなと思います。不思議な感覚を持つ映画で不思議な映画体験だったかなと思うんですけど、本日は本作の魅力を少しでも伝えられるような時間にしたいなと思います。よろしくお願い致します。 伊藤監督 今日は本当に坂口くんが言っていたように天気の良い日に映画館に入って、映画を観てくださり、本当にありがとうございます。短い時間ではありますが、上映後とのことで映画の内容についても少し話せたらいいなと思います。よろしくお願い致します。 ――名古屋はお久しぶりでしょうか? 坂口さん 写真集のイベントでお邪魔したりとか、今年もプライベートで友人に会いにきたりしていました。監督はどうですか? 伊藤監督 名古屋はついこの間、1つ前の作品の時にお邪魔させていただきました。 ――名古屋の思い出も教えてください。 坂口さん 鶏?味噌?今日は、さっき着いて天むすをいただきました。おいしかったです。 伊藤監督 名古屋めし、おいしいです。 坂口さん 伊藤監督は、何が好きですか? 伊藤監督 天むすも好きだし、矢場とんもおいしかったし、中華もおいしいし、餃子も食べたいし(笑) 『サイド バイ サイド 隣にいる人』は、あて書きした坂口健太郎さんから生まれた映画 ――監督は脚本・小説家でもいらっしゃいますが、伊藤監督の初監督作品が実は本作なんですよね? 伊藤監督 元々『サイドバイサイド 隣にいる人』が私にとっての映画初監督になるはずだったんですが、どうしてもきれいな新緑で撮影をしたくて、時期やコロナ禍の影響もあり、撮影が少ずれてしまって2作品目となりました。 ――伊藤監督の初監督作品にお声をかけられて、坂口さんは最初どんなお気持ちだったのでしょうか? 坂口さん 今回は、最初に台本をいただいて初めてのストーリーを知るわけではなく、前段階で監督が坂口くんで映画を撮ろうと思っているんだよねと、まだ題名も決まってないし、未山の存在もまだ生まれてない時から監督とお話をする時間がありました。未山像やストーリーについても監督と話す時間が時々あって、少しだけなんとなく親近感がありました。いざ台本をもらった時には、あえて言語化をしないで、お客さんに委ねるような部分を多く作ろうと意識していました。本作は、目に見えない想いの強さが出てくる作品ですが、ホラーとして撮ってもいないし、当たり前のように未山にとってはそこにいる、そういう捉え方、それがすごく面白いなと最初に台本をいただいた時に思いました。 ――監督は坂口さんにあて書きされたとのことで、お話をしていくうちに未山という人物像ができあがっていったのでしょうか? 伊藤監督 あて書きどころか、坂口健太郎さんから生まれた映画(笑) 坂口さん 僕は未山と全然違いますからね(笑) 伊藤監督 似ている部分はあると思います。特殊能力を持っているところとか(笑) 坂口さん あります、あります!やっぱり僕、すぐわかるんです(笑) ――え!それは、どんな特殊能力ですか? 坂口さん えっと…(笑)!監督があて書きで書いていただいた未山というキャラクターを読んだ時に、監督はこういうふうに僕のことを見える瞬間があるんだなとか、こういう一部分が僕の中にニュアンスとして持っているんだとか、発見でもありましたし、最初はそういうところにびっくりしましたね。 現場に入って共演者さんとお芝居をしてみて、実際の場所に囲まれた時に頭の中で想像していたものとは少しずつ変わってきますし、僕もこういう未山を最初から作ろうと思っていたわけではなく、現場で生まれたことが多かったかもしれないですね。 『ナラタージュ』の小野の役を演じてもらったのがきっかけ ―――監督はあまりお話をするお時間がなかったかなと思いますが、短いお時間の中で坂口さんを観察されていたのでしょうか? 伊藤監督 そうですね(笑) 坂口さん 年末は行定監督とご一緒したり、タイミングが合えばお会いしたりしていましたよね。 伊藤監督 そうですね。坂口さんとは『ナラタージュ』からなので年月的には長いですね。 ―――行定監督の『ナラタージュ』の時に脚本を書かれたんですよね。その時に坂口さんに出会って撮りたいと思ったのでしょうか? 伊藤監督 『ナラタージュ』の小野の役を誰に演じでもらいたいかなって周りの人に聞かれて、坂口健太郎さんにやってもらいたいと、その時は私が言いましたね。 坂口さん それね、何でだったんでしょうか?だって僕は別にそんな…ねぇ?(笑)。『ナラタージュ』を拝見された方はいらっしゃいますか?小野くんね、僕は結構好きなんですよ。 生と死の狭間にいるような感覚で寝てくださいという演出 ――未山は存在しているのか、存在していないのか難しい役どころですよね? 坂口さん 本当に難しかったです。存在をしてくれという演出を監督から言われた時があって、僕は存在しているよ?と思いつつも、ちゃんとそこに存在するということの大切さを投げかけられ、やはりそこはすごく頭を使いました。 寝ているシーンで生と死の狭間にいるような感覚で寝てくださいって監督がおっしゃって、僕はやってみます!って言って‥‥ただ目を瞑っただけだったかもしれないけど(笑)、難しいなと思いました。 伊藤監督 未山ってどこかずっと生と死の狭間をゆらゆらとしている存在なんですよね。寝ている時、もしかしたら目覚めないのかもしれないと思うような寝顔をしていてほしかったんですよ。でも、できていましたよね?みなさん、観てて不安になっちゃいましたよね。 坂口さん 僕はその時、どういうふうに寝たらいいのかなっと思いながら目を瞑っていたと思います(笑)。監督は結構長回しですよね? 伊藤監督 歩くシーンもだいぶいっぱい歩きましたよね。 坂口さん だいぶ歩きましたね。カットがかかってスタート位置に戻るまでめちゃくちゃ時間がかかっていました(笑) 伊藤監督 どこまで歩くんだと、不安になっていましたね(笑) 坂口さん そうそう、どこまで歩くんだろうって。 坂口さんがもし見える人だったとしても、見えないものをそのまま受け入れる人 ――想いが見えている時の未山の演出について、教えてください。 坂口さん やっぱり難しいですよ。最初に監督に草鹿の想いが見えている時って未山はどうなんだろうか、一体どこまで反応したり、どこまでその存在自体に僕がリアクションをとりましょうかって話をしていて、結局未山はどっちでもいい人なんだよねって、いてもいいし、いなくてもいいし。そこでわっというような芝居をするわけでもなく、ただただそこにいるのを受け入れてしまうような感じでした。僕ももしそういう存在がいたら、どっちでもいいんですよね。 伊藤監督 絶対そうでしょ(笑)。そうだと思います。 坂口さん いるならいるでいいし、いないならどっちでもいいかなと。もし見えても、そのまま受け入れちゃいますね。 ――美々ちゃんと坂口さんのシーンがかわいくて、ナチュラルでした。 伊藤監督 彼女も芝居はしているんですけど、芝居し過ぎないように現場でみんなが見守っていました。 坂口さん 監督もあえて当日にセリフを渡したりとかしていましたよね。 伊藤監督 アメリが熱心な子なので、すごく練習しちゃうから。 坂口さん そうそう。練習しちゃいますよね。みんなで遊んでいる時に監督が静かにカメラを回し始めたりとか、僕も彼女のテンションを上げたりする時は未山というよりは坂口健太郎でいるので、カメラが回り始めたと思ったら未山になったり、そういう工夫はあったかもしれないですね。 ――未山と美々が本当に自然で、やっぱりかわいいですよね。 坂口さん かわいいです、とっても!あと、吸収もすごいし、ちょっとしたことが彼女にも伝わる感受性のすごく強い子でした。監督や実日子さんだったりと、現場で伸び伸びと彼女にお芝居をさせていましたね。 伊藤監督 みんなの子どもになっていましたね。未山くんと美々の時間が本当にかわいく撮れて良かったです。私自身も癒されていました。 ロケーションも1つの主役になってくれたぐらい、長野の気持ち良い自然も見どころ ――新緑の季節が素敵で気持ち良さそうでした。撮影はどうでしたか? 坂口さん 気持ち良かったです。本当に気持ち良かった(笑)。空気がやっぱり良かったですよね。今回はもちろん、お芝居も見どころなんですけど、ロケーションも本当に素晴らしかったのでロケーション自体も1つの主役になってくれたような感覚がありました。ロケ場所の決め手は何ですか? 伊藤監督 長野で撮影しましたが、やっぱりあの場所の景色ってなんか神秘的ですごく自然の力と共存している雰囲気がある場所だったので、そこで撮りたいなと思いました。すごく良い所がいっぱいあって、見たことないような景色がたくさん広がっていたんですけど、湖のシーンは大正池で撮影しました。雰囲気がすごかったです。でも寒かったんですよね。 次のページ… 寒くない顔をしていたけど、震えるほど本当に寒かった湖のシーン 寒くない顔をしていたけど、震えるほど本当に寒かった湖のシーン 坂口さん 僕は寒くて景色どころじゃなかったです(笑)。映像ではふわぁとした顔をしているんですけど、本当に寒かった!あの日は。監督がチョイスした未山の衣裳が薄いんですよ(笑)。これは寒いな~と思いながら、寒くない顔をしていましたけど(笑)本当に寒かったんです。 伊藤監督 あんな素肌のような服着てね(笑) 坂口さん あれは着てないようなものですよ(笑) 伊藤監督 着てないね(笑)。あそこは標高も高くてちょうど前日に雨も降っていたりして、あまりにも寒くてスタッフたちはみんなコート着て、震えながらやっているのに、坂口くんは震えることもないし、鳥肌も立たないし、本当にすごいなと思いました。 坂口さん いや、鳥肌は立ってる(笑) 伊藤監督 え!鳥肌立ってたの?(笑) 坂口さん 立ってますよ(笑)。僕もめちゃくちゃ震えていましたよ。 伊藤監督 プロ根性がすごいなと思いました。大事な芝居なので結構何度もやらせてもらってね、本当に頑張ってもらいました。 未山の人生を清算する旅路のような感覚で演じていた ――他の共演者さんの印象なども教えてください。 坂口さん 実日子さんは本作では、陽の部分を請け負ってくれて、飛鳥ちゃんは陰の部分で、未山ももちろんそうなんですけど、やっぱり未山にとっても莉子にとっても、詩織にとってもお互いがいて初めて成立すると言いますか、完璧な人たちではないので、どこか欠けている部分があって、その部分を彼女たちが埋めてくれるような感覚が撮影中はありました。ニュアンスだったりとか、未山の芝居で言うと、相対する役者さんだったりと、未山は変化のあっていい男の子だからと監督が最初におっしゃっていました。 僕は未山像を考えてクランクインしていましたが、逆にそれを一度手放してみて、実際に現場で生まれる空気感だったりと、お芝居を大事にしてみようと思って。実日子さんがお芝居をしている時は、詩織さんといる未山になるし、莉子ちゃんといる時は莉子ちゃんといる未山になるし、僕の未山の捉え方って、彼の語られていない過去の人生だったり、なんとなく清算する旅路のような感覚がありました。 最後のストーリー展開では、未山の中でも大きな落としどころを見つけたんだなという、そんな感覚を持ちながらお芝居をしていたかもしれないですね。 伊藤監督 未山が周りをすごく感じ取る能力があるので、相手に対して相手に合わせたコミュニケーションのとり方をする、それを自然とやってしまう人だったのですが、詩織だけは受け取るものがもう少し大きい。未山が家で着ている服のパーカーは黄色と薄紫色なんですけど、あれは普段着ている服は白いのに、詩織のカーテンの色がまるで染まっているような服にしています。 観る人で捉え方が違って、観る日によっても違う映画になる ――お話を聞いていると隅々まで観たくなりますね。最後に一言お願い致します。 伊藤監督 たくさんの人に観てもらいたいと思っている映画なので、気に入っていただけたら周りの人にちょっと内容は言いづらいかもしれませんが、おすすめして下さるとうれしいです。本日は観ていただき、本当にありがとうございました。 坂口さん 今日はエイプリルフールじゃないですか。なんか言おうかなって、幸せな嘘がつけたらいいなと思っていましが、先にこれ言っちゃうと全然だめですね(笑)。 今日はみなさん、ありがとうございました。この作品は、本当に観る人で捉え方が違うし、観る日によっても違うと思うんですよね。この前、市川実日子さんが初めて観た時と、完成披露試写会の前に観た時とでは、作品に対するイメージが全然違って、違う映画を観ているみたいだったとおっしゃっていて、そんな映画ってなかなかない気がするんです。監督が今回挑戦している説明をあえて省くことだったり、みなさんにこう感じでもらおうとみなさんだけの『サイドバイサイド』ができたらいいなというような気持ちが今の映画界や作品作りにすごく必要なことだなと僕は思っています。ジャンルが明確にある作品ではないので、すすめ方が難しいと思いますが、みなさんの中で今回観た感覚を大事にしていただいて、本作の奇妙さや面白さみたいなところを周りの方々に伝えていただけたらうれしいなと思います。今日はありがとうございました。 いまの自分の隣にいる人、過去に隣にいた人、ずっと隣にいる人など、いまの時代だからこそ大切な人との関係性を改めて考えたい、多くを語らず、受け取る側の気持ち次第で自由に考えられる本作。人と人の距離感や人物の服装の色に心情を反映させるなど、細かく丁寧に描かれたシーンにも注目です。長野の自然たっぷりの景色に癒されながら、この春を彩る切なくも美しい物語をぜひ大きなスクリーンでご覧ください! サイド バイ サイド 隣にいる人 監督・脚本・原案伊藤ちひろ 企画・プロデュース行定勲 音楽小島裕規 ”Yaffle” 主題歌「隣」クボタカイ(ROOFTOP/WARNER MUSIC JAPAN) 出演坂口健太郎、齋藤飛鳥、浅香航大、磯村アメリ、茅島成美、不破万作、津田寛治、 井口理(King Gnu)、市川実日子 他 公式サイトhttps://happinet-phantom.com/sidebyside/ ©2023『サイド バイ サイド』製作委員会 ※掲載内容は2023年3月時点の情報です
【絶賛公開中!】映画『すずめの戸締まり』名古屋での舞台挨拶に岩戸鈴芽役・原菜乃華さんと新海誠監督が登壇!
11月21日(月)、ミッドランドスクエア シネマで開催された新海誠監督最新作『すずめの戸締まり』の“「行ってきます日本」全国舞台挨拶”に岩戸鈴芽役の原菜乃華さんと新海誠監督が登壇しました。動員460万人・興行収入62億円を突破した大ヒット上映中の本作。制作の裏話や名古屋について語っていただきましたので、その様子をレポートします! STORY 九州の静かな町で暮らす17歳の少女・鈴芽(すずめ)は、「扉を探してるんだ」という旅の青年に出会う。彼の後を追うすずめが山中の廃墟で見つけたのは、まるで、そこだけが崩壊から取り残されたようにぽつんとたたずむ、古ぼけた扉。なにかに引き寄せられるように、すずめは扉に手を伸ばすが…。やがて、日本各地で次々に開き始める扉。その向こう側からは災いが訪れてしまうため、開いた扉は閉めなければいけないのだという―。不思議な扉に導かれ、すずめの“戸締まりの旅”がはじまる。 名古屋めしがおいしくて、羨ましい ――はじめに会場の皆様にご挨拶をお願い致します。 新海監督 皆さんこんばんは、初めまして。映画『すずめの戸締まり』の監督をいたしました、新海誠です。2時間の長い映画を観てくださり、本当にどうもありがとうございます。お疲れだと思いますが、30分程お時間いただいておりますので、楽しいお話ができればと思います。ぜひ、一緒に楽しみましょう。どうぞよろしくお願い致します。 原さん 岩戸鈴芽役を演じさせていただきました、原菜乃華です。本日はお越しいただき、本当にありがとうございます。こんなにもたくさんの方に観ていただくことができて、すごくうれしいです。短い時間ですが、本日は宜しくお願い致します。 ――どうもありがとうございます。日本全国舞台挨拶ということで、本日は名古屋にお越しいただきました。新海さんは、名古屋はお久しぶりですよね。 新海監督 名古屋には、3年前に『天気の子』という映画を作って、6年前に『君の名は。』でお邪魔いたしましたので、3年ごとに来ているという感じです。この3年間、新型コロナウイルスだとかすごく大変なことがあったと思うんですけれども、今日、また皆さんの顔を見られたことがとても幸せです。皆さん、お元気でしたか。 会場 (拍手) 新海監督 元気そうですね。菜乃華さんは名古屋には? 原さん 名古屋は6、7年ぶりに来ました。子供の頃に来た時以来です。昨日は、新海さんと一緒に名古屋めしの名古屋コーチン、今日のお昼には味噌煮込みうどんを食べさせていただいて、最高においしかったです。 新海監督 やっぱり、名古屋は食べ物がおいしいですね。名古屋の皆さんが羨ましいです。 ――名古屋を堪能してくださって、ありがとうございます。さて、先程、上映後には大きな拍手をいただいておりました。今日初めて観たという方もいらっしゃると思います。 原さん 今日初めて観たよっていう方、手を挙げていただいてもよろしいですか? 新海監督 ありがとうございます。4割ぐらいの方が手を挙げていますね。今日初めてご覧いただいた方には、たくさんの色んな味をギュッと詰め込んだ映画ですので、何を感じればいいんだろうともしかしたら整理できないまま、映画を観ていた方もいらっしゃるかと思います。今日、質疑応答や一緒にお話をしながら、映画が好きだったかそうじゃなかったか(笑)感想を定めていっていただければうれしいです。 最初の直感で、鈴芽の声は菜乃華さんじゃないかなって思いました ――原さんは本当に鈴芽ちゃんがスクリーンからでてきたかのように、ぴったりでした。ぜひ、オーディション時のお話を聞かせてください。 新海監督 ご存知かと思いますが、原さんは1700人の中から選ばせていただきました。宗像草太役の松村北斗くんに関してもそうなんですが、しっかりオーディションを行わせていただいて。中でも、鈴芽役はオーディションの人数が多かったんです。アニメーションですので、声優さん、女優さん、アーティストさんやアイドルの方も含めて、鈴芽の年代に近い方々から広く募って、候補をいただきました。自分の脚本は、自分の子どものようなものなので、1700人いたとしても一目で見つけられるんです。1700人の中で候補を出して、一人ひとり丁寧に、お芝居を聞かせていただくんですが、やっぱり最初に感じた「鈴芽の声は菜乃華さんじゃないかな」という直感を確認していく作業を進めていきました。 僕にとって一番怖いのは、もしオーディションに彼女がいなかったら…1700人の中からいくら探しても見つからなかったら途方に暮れていたと思います。今回、幸いなことに菜乃華さん、そして北斗くんがいましたので、そこから始動したレコーディングについては何の不安もなく、この2人に託せば大丈夫かなと思っておりました。 最初のアフレコでは、北斗さんが叫んでいた!? 原さん やっぱり、最初はうれしさよりも不安や心配の方が大きくて。その度に、監督は「僕たちは何も心配していません」とはっきり言ってくださって、安心しながらレコーディングすることができました。 新海監督 不安そうにしていたのは菜乃華さんも北斗くんもなんですが、特に北斗くんはアフレコを初めて行った時になんか叫んでいましたよね(笑) 原さん 「できないー!!」って叫んでらっしゃいましたね(笑)でも、松村さんもこんなに緊張されているんだったら、私なんかが緊張するのは当たり前のことなんだと思えたので、きっと松村さんなりの優しさだったんじゃないかなと思います。すごくありがたくて、隣で一緒に戦ってくれているような感覚がありました。 新海監督 僕は大丈夫かなと思いましたけども(笑)でも同時に、2人が不安そうに取り組んでくれているのが、うれしいなと思いました。その不安も含めて映画にもらえると思いましたし、映画ってなんでもそうですけど、物語がスタートした時点では、主人公というのは何らかの欠落や不安、不全感というのを抱えていて、それがこうエンディングを迎えたときには一歩背筋が伸びるような状態で「行ってきます」と言えるようになるのが映画だったりしますので、同じ工程を役者たちが2カ月かけて辿ってくれて、鈴芽の成長とシンクロするような芝居をお2人にはいただけたと思います。 舞台挨拶で生アフレコを披露! 新海監督 せっかくの機会なので、ここでアフレコをしてもらおうと思います!よろしいでしょうか? 会場 (拍手) 新海監督 急遽、新幹線の中で台本を書いてきたので、やりましょう! 原さん 実際のアフレコの時の定位置でよろしいでしょうか?目の前に画面があって、ガラスを一枚隔てた向こう側に監督がいらっしゃって、ここからは声は聞こえないのですが、マイクで演出をくださいました。 新海監督 僕たちは役者の横顔や台本を見ながら、声だけ聞いているんですけど、今日はみなさんが芝居をする役者の顔を正面から見られるので羨ましいなと思います。 原さん ガラスの向こうで監督がマイクを通さずに何か喋っている時は、聞こえなくて、すごくけちょんけちょんにされているのではと思っていました(笑) 新海監督 そういうことはないです。僕1人で決めるわけでなく、音響監督をはじめ、皆さんに「今、3回目やってもらって1つ目がいいと思うけど・・・」と、意見を聞いたりとか、このテイクだったら次の声はどんなトーンがいいかなだったりとか、そういう指示出しも含めて相談しているんです。 新海監督 今日は草太役がおりませんので、すずめに祝詞を唱えてもらいましょう。扉を押しながらなので、力を込めて言ってみましょう。 原さん わかりました! 新海監督 そして、北斗くんが今日いませんので、本人もとても悔しがっていましたがお仕事がどうしてもあって、みなさんによろしくお伝えくださいと結構頻繁にラインをくださいますので、だったら来てほしいなと思いながらも(笑)僭越ながら、僕が草太役をやらせていただきます。 会場 (拍手) 原さん よーいスタート! 生アフレコを終えて、会場一同拍手 ――体が震えますね!ありがとうございました。 新海監督 今のようにやりながら、北斗くんに今のはもっと泣きそうに情けない感じで言ってみてとか、菜乃華さんには、声は裏返ってもいいから本当に泣き出しそうな感じで言ってみましょうかとか、何度も何度もやりとりしましたね。時には、10回、20回、30回と2カ月かけてやっていました。 ――監督、役がお上手ですよね。 原さん 本当にお上手で、最初に鈴芽役も草太役も監督の声を入れたビデオコンテみたいなのをいただくんですけど、監督がお上手なのでこれを超えなくていけないとハードルがとても高くて、鈴芽役でも違和感ないんじゃないかなと思うくらいです。 新海監督 そんなわけないです(笑)ちょっと声のトーンを上げて喋るんですけど、ビデオコンテのラフに声と仮でアイフォンで録音した効果音を入れて2時間のコンテを作るんですけど、それを声は役者たち、画はアニメーターたち、背景は美術・CG人たちで 1コマ1コマ、1枚1枚、1言1言を上書きしていくんですよね。1年8カ月くらい続けて完成するんですけど、僕にとってはビデオコンテが全部完成カットになって、全部役者さんの声になった時は、本当に空気が入れ替わったような、色が入れ替わったような、新しい作品になったような感動があって、それが楽しみでやっているようなところもあります。今日は聞いていただけてうれしかったです。 新海監督・原さん ありがとうございました。 遊び心ある演出も見どころ ――本作は冒険物語でしたが、どうやって場所を決めたのでしょうか?(会場のお客さん) 新海監督 場所を選んだのはいくつか理由がございまして、映画の尺の中で描き切れる、展開的に観客を飽きさせないルートを最優先に決めさせていただきました。それまでには、神話をモチーフにしている部分もあるので、ヤマトタケルノミコトの東征のルートだったり、「戸」という文字のつく地名を辿っていくだとか、色んな案がありました。 ――私は今回で映画を3回観させていただいているんですが、何度観ても楽しめる注目ポイントを教えてください。(会場のお客さん) 新海監督 僕はいっぱいあるんですけど…最後の鈴芽と草太のシーン。僕としてはすごくいいなと思っていて、鈴芽をより好きになれました。 原さん 私もあのシーンすごく好きです! 『すずめの戸締まり』は、これ以上ないと思う映画 ――薄っぺらい質問になってしまうかもしれないんですが、次の作品は作り始めていたりするんですか?(会場のお客さん) 新海監督 薄っぺらくないですよ、重い質問でいらっしゃいます(笑) 会場 (笑) 新海監督 僕としてはこの前出来上がった作品という感じで、終わったと思ったら休む間もなく色んなところに行っていて(笑)次作はまだ白紙なんです。公開してから「怖くて怖くて仕方ない」と泣き言を菜乃華さんにも言っちゃっているんですけど。怖い理由はいくつかあって、この映画を皆さんにどのように受け止めていただけるんだろうっていう怖さ。8年ぐらいずっと考えてきたもので、最高のスタッフを集結させて、これ以上ないという映画を出したつもりなので、これで無理だったら次どうしたらいいか分からないなっていうくらいなんです。僕はこの先の人生でもう少し映画を作り続けられると思うんですが、『すずめの戸締まり』より良いと思える作品を作れるかどうかの自信が全くないんですね。どうしたらいいですかね?(笑) 会場(笑) 新海監督 ただ、菜乃華さんたちと色んな場所を回りながら、皆さんの顔を見て、もしかしたら何か出てくるんじゃないかなと思っています。次回作を作れと言われた気がしますので(笑)背中を押されたつもりで頑張りたいと思います。 観客の皆さんと一緒に作ったような濃い作品 ――最後に一言お願いします! 新海監督 長い時間、お付き合いいただきありがとうございました。『すずめの戸締まり』は僕1人の力では出来なかった作品なんですね。エンディングの曲である、RADWIMPSの「カナタハルカ」のなかに「僕にはない 僕にはないものでできてる 君がこの僕を形作ってる」という歌詞がありますが、そういう映画を作ったようなつもりでおります。素晴らしいキャスト、スタッフの力もそうなんですが、観客の皆さんと一緒に作ったような気持ちがどこか濃い作品なんです。皆さんの声がずっと聞こえてきているような気がして、この映画に導かれたと思っておりますので、少しでもこの映画を気に入っていただけましたら「私もこの映画に参加した」というくらいに寄り添っていただけるとうれしいです。『すずめの戸締まり』という映画は、これから日本全国、世界に旅立っていく映画となります。それでは、すずめさん! 原さん 行ってきます! 新海監督・原さん 本日は本当にありがとうございました。 何度も観ても楽しめる、約8年温め続けてきた新海監督のこれ以上ない最高傑作『すずめの戸締まり』。まだまだ大ヒット上映中なのでぜひ、劇場ですずめと一緒に旅へ出かけてみてください! すずめの戸締まり ミッドランドスクエア シネマ他で公開中! 原作・脚本・監督新海誠 声の出演原菜乃華、松村北斗 他 音楽RADWIMPS×陣内一真 公式サイトhttps://suzume-tojimari-movie.jp/ ©2022「すずめの戸締まり」製作委員会 ※掲載内容は2022年11月時点の情報です
日本福祉大学×映画『ロストケア』公開特別授業に松山ケンイチさん、長澤まさみさん、鈴鹿央士さん、前田哲監督、原作者・葉真中顕さんが登壇!
3月24日(金)より絶賛公開中の映画『ロストケア』。第16 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した葉真中顕さんの『ロスト・ケア』を原作にした介護がテーマの社会派エンターテインメントです。監督は、映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』、『そして、バトンは渡された』を手がけた前田哲監督。松山ケンイチさんと長澤まさみさんが初共演した、二人の魂がぶつかり合う対峙するシーンにも圧巻です! 介護士でありながら、42人を殺めた殺人犯・斯波宗典に松山ケンイチさん。彼を裁こうとする検事・大友秀美に長澤まさみさん。大友と共に斯波を追う検察事務官の椎名幸太を鈴鹿央士さんが演じ、現代社会の家族のあり方と人の尊厳の意味を問いかける本作。 今回、日本福祉大学の美浜キャンパスにて、映画『ロストケア』を題材に介護について学ぶ公開特別授業を実施。授業には、松山ケンイチさん、長澤まさみさん、鈴鹿央士さん、前田哲監督、原作者・葉真中顕さんが登壇し、20年以上にわたって介護殺人の研究に取り組んできた社会福祉学部の湯原悦子教授と学生さんと共に学びました。 介護問題をリアルに映し出す本作は、フィクションでありながらフィクションで終わらせてはいけない 本作を観た湯原教授のゼミ学生からは、「介護殺人の映画ということで、私自身が13歳から17歳の約4年間在宅介護をしておりまして、映画内での親子の言い争うシーンなど、私の家庭でもわりと日常的にあったので、介護者も被介護者も過剰な演出ではなくて、リアルな家庭の問題を映し出しているなと感じました。介護を経験された方は共感でき、そうでない方も外から見えない家庭の問題を知ってもらうきっかけとなる映画だったと思います」と感想を語りました。 別のゼミ学生からは「この映画はフィクションで終わらせてはいけないと強く感じました。映画の始めにある刑務所の話も実際にあり、映画の中での認知症の問題や、介護の限界は、日本で現実に起こっています。映画で“見えるものと見えないもの”じゃなくて“見たいものと見たくないものがある”とういうセリフが印象的でした。“見たくないもの”こそ、大事なものであって、社会福祉学生としてそういったところに目を向けて、どのような解決方法があるのか、介護されている側もそうですし、介護者が幸せに暮らせるためにどうしたらいいのだろうと、考えていかなければならないと強く感じました」とコメントしました。 介護者の背中を押したり、介護について考えるきっかけに 湯原教授 学生と同年代の鈴鹿さん、コメントを受けていかがでしょうか? 鈴鹿さん 僕よりしっかりと感想を述べていらっしゃるので、しっかりと観ていただいて本当にうれしい気持ちとありがたいなという思いがあります。映画だからフィクションだけど、フィクションでとどめてはいけないと、問題提起にしっかりなっていて、そこまで届いていたんだなと思いました。僕の地元ではまだ実際に介護をしたことがない人が多い世代ですが、介護されたことのある方の背中を押し、介護に触れたことのない人も映画で介護について考えるきっかけになってほしいなと思っていましたので、全て言ってくれました。 湯原教授 若い方々にとっては、高齢者介護の話は聞いていたけれども、自分はそこまで経験ないなって人も多いかなと思います。本学の場合は学生さんの中に介護経験があって、その思いを元に福祉を学びたいと思われた方や、実際にそうなられる方がご兄弟にいて、ご兄弟も介護が必要など、ヤングケアラーとして過ごされてきたという方もいらっしゃいます。鈴鹿さんが今お話ししてくださったように、若い人にこちらの映画を届けることができて、実はあまり知られていない若いケアラーの人たちに対しても非常に世の中の気付きが広まるという点で、すごく意味のあることなんだなと思っております。 湯原教授 特に印象に残ったシーンも教えてください。 鈴鹿さん 綾戸智恵さんが演じられていたように、刑務所に入れてほしい高齢者の方も実際にいるというのを聞いて、あのシーンは撮っていて不思議な感じでした。監督はどうでしたでしょうか? 前田監督 実際にそういう方もいらっしゃるので、あのシーンから本作を始めたいと思っていましたし、そういう方がいらっしゃるということも知っているようで知らない方もいらっしゃいますので、そのように感じてもらえて良かったと思います。 湯原教授 あのシーンは、私もとても印象に残っているシーンで、今作は介護をテーマにした映画ではありますけれども、高齢者問題はそれだけではないです。犯罪をする方も犯罪をしないと生きていけない、そういう何か理由があるのかなと思いを馳せていただけるといいかなと思っております。問題提起ありがとうございます。 次のページ 葉真中先生自身が当事者となり、介護と向き合った経験から生まれたもの 葉真中先生自身が当事者となり、介護と向き合った経験から生まれたもの 湯原教授 葉真中先生の『ロスト・ケア』を原作にした映画ですが、本作を書かれた年代は、高齢者問題として介護保険が導入された後に本当に様々な混乱が起きました。一番大きな介護事業者が突然なくなる事態もあり、とても動いていた時代でした。こちらの作品が生み出される背景に葉真中先生の経験など、どのような思いがあったのか、お聞かせください。 葉真中先生 『ロスト・ケア』がデビュー作となりまして、出版されたのが10年前、執筆していたのは15年ほど前になります。介護問題にものすごく混乱があった時期で、その時に私も家族の介護をする当事者になりました。まだ30代でしたが、何も準備もしていないのに突然やってきました。当事者になってわかったのは、介護と言ってもいろんなレイヤーがあって、しかも当時は日本社会で格差と言われるようになった時代で、そういう格差ってこういうところにくるんだと本当に現場でたくさんの人の事例を見る中で思いました。お金だったり、家族間の密度だったり、ちょっとしたことで同じような状況なのに人と人との間にものすごく格差が開いていて、同じ世代で生まれて、同じくらいの親を持って、同じような病気になったのにAさんとBさんとで天国と地獄みたいになってしまう。そこに業界の混乱が重なって、これはすごいことになっているなと肌で実感しました。当時、これを小説にしようと思って書き始めました。 湯原教授 ありがとうございます。葉真中先生自身が当事者として、この時代に介護に向き合われたということですね。本当に原作の中でも介護の状況がリアルに描かれていて、映画の中でも斯波の介護を通じて胸を痛めたり、いろんなことを考えたりされていたのではないかと思います。 世の中の様々な問題に対して、まずは興味を持ってもらうことが社会を動かす原動力になると信じている 湯原教授 本作を映画化するにあたり、介護以外に高齢者の犯罪の問題もありましたし、大友の父の孤立死という大きな問題提起もありました。 前田哲監督 2013年に原作と出合って、憤りのようなすごく熱い思いを感じ、映画化しなければいけないなと思い、松山さんとやりましょうと話を進めていきました。今でこそ“ヤングケアラー”という言葉も言語化されてきましたけれども、それまでは、知らない間にそういう状況に陥っている人もいたと思います。少しでも社会が良くなるように、誰しもが幸せに暮らしていけるように、映画の力は未知数ですが、映画を観た人が映画を観たことを話題にすることが、一つのきっかけになる。ニュースでも見出しだけで素通りしていた人が内容を読んでみるなど、興味を持ってもらうことがやっぱり社会を動かす原動力になるのではないかと、僕は常に思っています。そのために映画というエンターテインメントの入口が少しでも役に立てるのではないかなと思って、作っています。 湯原教授 世の中のいろんなところで実はいろんな問題があって、苦しんでいる人がいるというところで、私たちはかなり無自覚なのかもしれません。無自覚でも生きてはいけるのだけれども、本当にそれでいいのかなと、それを投げかけるのは私たちのような研究者の役割の一つでもありますが、なかなか人々に届かないところもあります。私も研究テーマについてお話をさせていただいておりますが、やはり来ていただく方はある程度関心がある人になってしまいます。それだけでは社会は変わらない。この映画で素晴らしい演技をされるみなさまが出てくださったことで、今まで介護問題に対して目を向けてこなかった人にも注目していただけるきっかけになったと思います。この問題に対して、私宛の問い合わせも多くなり、それも一つ社会の動きとして大きく、影響力を感じでおります。 湯原教授 さらに介護殺人について掘り下げていきたいと思います。ゲストのみなさまもよろしいでしょうか? 松山さん 大丈夫です! 湯原教授 松山さん、ご協力ありがとうございます。もし私のゼミでしたら、ゼミ長に指名したいです(笑) 次のページ 介護の限界を迎えた斯波に対して司法は何ができるのか、とても難しい問題 介護の限界を迎えた斯波に対して司法は何ができるのか、とても難しい問題 湯原教授 長澤さんは、検事の大友役を通じてこの問題をどう考えればいいのか?映画の主題歌にもなっている“そうであろう”という意味の「さもありなん」という言葉もありますが、本当にそうでいいのか?検事の貫く正義を問いかけてくださっていました。斯波に対して、どのような刑罰が必要かと考えられますか? 長澤さん とっても難しい質問ですが、斯波がした行為というのは、やはり許されるものではないと思いますし、厳しい刑罰を受けるということは必要なのかなと思います。だけど、斯波自身が自分の犯したことに対して、これは“救い”だと、彼の正義を元に語っていて、法的な刑罰を与えても、斯波にとって罰として捉えられるのが難しそうに思います。斯波自身も父親を憎んでいたわけではなくて、すごく大切にしていた存在であったからこそという、彼の正義があるという部分もまた難しくて、斯波と同じような事件が年々増えているようなことを聞くと、やはり解決するにはとても難しい問題だなと思います。 そういったところも踏まえて、悪いことをしたから罰を与えるだけではない考えを、今後考えていかなくてはいけないのかなと思いました。一言でこうしたほうがいいというようなはっきりとした答えは言えないですが、そういったこともまた変わっていくのかなと思いますので、都度考えていかなくはいけないなと思いました。 湯原教授 ありがとうございます。本当にすごく難しいことを聞いてしまったなと思いますが、斯波は“救い”だと語っていて、自分のしたことに対して、罪悪感を表に出していません。原作でも繰り返し問われている部分になっていて、斯波がこのままかなり重い刑でずっと刑務所にいるようなことがあった場合に、斯波はこの時間をどう過ごすのか、どういうふうに居続けるのかとも思います。司法が斯波に対して、何ができるのか、本当に長澤さんがおっしゃったように難しい問題で、個別に考えていかなければならない問題だと思います。 みなさんは映画を観たので、斯波の背景を知り、考えを知り、その中で考えているかと思います。でも先ほど新聞の話もありましたが、新聞ではやったことや内容があり、それに対してこういうことになったという情報だけなので、その背景にも目を向けてほしいと思います。 介護の課題をたくさんの人と共有していくことで、救われる命が増える可能性がある 湯原教授 松山さんは、プロセスをたどりながら、愛する父親に対して犯行を行い、“救い”という考え方で犯行を重ねていく役でした。介護者が直面する困難が様々な角度から描かれていて、特にここが大事だとか、みなさんにぜひ知ってもらいたいとシーンを教えてください。 松山さん 異常者ではないというのを大事に、斯波はみなさんと何も変わらない、僕とも変わらないということをすごく意識しました。柄本明さんが演じるお父さんと斯波は、母親や親族もいない親子で孤立化しやすい状況ではあったのですが、小さい頃から男手一つで育ててきてもらったのだから、今度は自分が返す番だと一生懸命介護をしていく。その中で限界がきてしまって、選択肢の一つでもあった生活保護を申請しに行くが断られてしまう。そこで残った選択肢というのが、柄本さんが伝えていた「自分を殺してくれ」という言葉だった。 外側から見ていると、法律やルール、社会の常識でしか物事が見づらいので、事件ということだけを見て、何でこんなことになったんだろう、誰か助けてあげれば良かったじゃない、助けを求めれば良かったじゃないと、思ってしまうと思いますが、そうではない状況が内側にあります。立場によって見ている景色が全く違うんですよね。それを防ぐために斯波ができたことは、誰かとこの話を共有する、介護をしていることを共有することだったり、どういったセーフティーネットがあるのか調べることだったりと、選択肢を持っといてほしかったなと僕は思いますね。 ただ、それも結局余裕のある人ができて、余裕がなければそれすらもできない、本当に今目の前にあるお父さんの介護で精一杯になってしまう。ある意味子育ても一緒だったりすると思います。周りの人たちが孤立化させないというのもまた一つ大切になってくる。 みなさんも介護の経験をされたりとか、これから介護の仕事に関わってくることになるかもしれませんが、こういう素晴らしい大学で学んでいらっしゃるみなさんですから、知識を持って目の前にある介護の課題をたくさんの人と共有していくことで、介護する側も介護される側も救われる命が増える可能性があります。学んだ人だけが見えている問題ではなくて、たくさんの人が見ていかなくていけない課題で、そういうところが大事だと思いました。 湯原教授 ありがとうございます。本当に異常さがないというところは大事なことで、私も何人もの介護殺人の加害者の方に出会ってきましたが、みんな一生懸命に介護しようと思っていて、普通の生活をしていたけど、こうなってしまったという人でした。私もこの斯波が誰かと共有できる人がいたら良かったなと観ていてつくづく思いました。最後にスライドでまとめたいと思います。 一人でも多くの人がこの社会問題に関心を持ち、個として考えること ――斯波の第一の事件を防ぐとしたら、どんなことで防ぐことができたのか。 湯原教授 まず、斯波の第一の事件を防ぐとしたら、どんなことで防ぐことができたのか。介護殺人の中でも防げる事件と防げない事件があると思っています。今回のこの事件は非常に難しいです。なぜかと言うと、斯波はできる限りの努力をし尽くしていた。介護殺人の法廷でも「自分は精一杯できることをやったので、一体何を反省したらいいのかわからない」と述べる被告がかなりいます。父親が息子へ殺してくれと頼んでいる。介護当事者の努力による状況打開は見込めない、父親がいくら努力しようともこの状況が良くなったかと問われると非常に難しいと思います。 かなり貧困な状況でしたので、介護サービスを使うことに関してもサービスの利用料が払えない状況で、使用できなかったのではないかと。高齢者への虐待防止法、障害者への虐待防止法などもあり、もし斯波が虐待していて通報されていたら、外部の支援が入りました。でも今作では、そういうことはしていないため、孤立していったのだと思います。唯一斯波が助けを求めたのは、生活保護の申請へ行った時、この時に斯波は助けを求めていました。でも、あなたは働けるでしょと言われてしまった。生活保護の行政からしたらしょうがなかったと言われるかもしれませんが、ここでみなさんにぜひお願いしたい。支援者としてこういった方をサポートする時は、目の前にいる人の背景にぜひ思いを馳せてください。なぜ働ける人はここにいるのかなど。介護者が力尽きないようにする、私は支援者として行った斯波のケアはとても素晴らしいと思いました。自分がやってもらえなかったことをやっている。葬儀での介護者への言葉がけもよく頑張られました。これは介護者としてかけてもらいたい言葉だなと思います。 そして、要介護者のみならず、介護者への支援が必要だということをぜひわかっていただきたいと思います。介護者自身の健康は大丈夫か。きっと斯波もこの介護が始まる前は東京で働いていた普通の若者だったんでしょう。介護者が大切にしたい自分の時間や大切な人と過ごす時間のためにも、良くなってほしいなと思います。介護者自身の人生、例えば、あのままお父さんを看取ったとしても斯波は仕事をしていないし、お金も持っていません。これからどうやって生活していくのか、とても辛い状況であります。それもぜひ気にかけるということが必要です。 介護者を支援するための法律は、全国的なものは今はまだないのですが、条例が立ち上がっています。何よりも大切なのは、このような高齢者の調査、介護者支援が充実する法的なものもさるものながら、一人でも多くの人がこの社会問題に関心を持ち、個として考えることです。今回の『ロストケア』でメッセージを伝えることができ、本当に期待しています。みなさま、ありがとうございました。 映画『ロストケア』を通して、高齢者問題や介護殺人など、どう向き合っていくべきなのかと公開特別授業で呼びかけました。校内には、大きなパネルも設置され、公開特別授業後には多くの人が撮影する場面も。今後の課題として、介護問題について深く考えることのできる授業となりました。決して他人事はない、今考えるべき社会問題に向き合った衝撃の感動作。柄本明さんが演じる父と、斯波の迫真に迫る親子の葛藤するシーンにも注目です。目を背けず、社会問題としっかり向き合う本作をぜひ劇場でご覧ください。 STORY 早朝の民家で老人と訪問介護センター所長の死体が発見された。捜査線上に浮かんだのは、介護家族に慕われる献身的な介護士・斯波(松山)だった。検事の大友(長澤)は、斯波が勤める訪問介護センターで老人の死亡率が異常に高く、彼が働き始めてからの死者が40人を超えることを突き止める。真実を明らかにするため、斯波と対峙する大友。斯波は自分のしたことは「殺人」ではなく「救い」だと主張する。彼が多くの老人を殺めた理由や、彼が言う「救い」の真意とは何なのか?そして彼女は、法の正義のもと斯波の信念と向き合っていく―。 ロストケア ミッドランドスクエア シネマ他で絶賛公開中! 監督 / 前田哲 原作 / 葉真中顕「ロスト・ケア」(光文社文庫刊) 主題歌 / 森山直太朗「さもありなん」(ユニバーサル ミュージック) 出演 / 松山ケンイチ、長澤まさみ、鈴鹿央士、坂井真紀、戸田菜穂、峯村リエ、加藤菜津、やす(ずん)、岩谷健司、井上肇、綾戸智恵、梶原善、藤田弓子、柄本 明 他 公式サイト / https://lost-care.com/ ©2023「ロストケア」製作委員会 ※掲載内容は2023年3月時点の情報です
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