THE BACK HORNのみなさんは、全員が作詞作曲を手掛けていますよね。山田さん、菅波さんそれぞれの制作スタイルをお伺いしたいです。
菅波さん どうやって作ってるかとかは、お互いあんまり聞いたことないよね。山田さん ちょっと恥ずかしくてあんまりね…。
菅波さん そんなに恥ずかしい作り方してるの?(笑)
山田さん いや、してないけど(笑)、曲ができるきっかけは、曲によって違いますね。街中を歩いてるときにメロディが浮かんできて、ボイスメモに録音して、後からコードを探って作ったりとか。鍵盤で作ることもあるし、ギターで作ることもありますね。
菅波さん この間、川で作ってるって話も聞いたけどね。
山田さん 川は作るっていうよりも、見つめる時間…みたいな感じだね。川って空が広いじゃないですか。「ああ、ここでも聴ける曲だ」みたいな。雑踏とか部屋の中だけで完結しないで、そこでBGMとして聴いて、良いっていうところまで持っていけるようにしてますね。
菅波さん マツは、公園で歌詞を書くって言ってたよね。公園で歌詞書いて、将司にメールで送って、将司は川沿いでそれを読んでる、みたいな。
山田さん 遠距離カップルか(笑)
菅波さん いい二人だな~と思ったけどね(笑)俺も結構、制作スタイルは将司に近いですね。やっぱり、近くなってくるのかな。街中で思いつくことが多いですね。端から見たら、ただぶらぶらしてる人みたいになっちゃうんですけど(笑)、制作が始まって最初の20日くらいは、ぶらぶらしてますね。
山田さん 拾うんだね。アンテナ張って受信待ちなんだよね(笑)
菅波さん そうそう(笑)あと、本屋の小説のコーナーによく行きますね。小説のタイトルって磨かれていて、世界観があるので、小説のタイトルを読んで、自分の中の言葉のジャンルを縮めるというか、そういう世界観に照準を合わせていくみたいな。いわば演じてるみたいに、その役の気持ちになりきって書いたりするときもあるんですよ。俺は、自分以外の人が主人公っていう歌詞も結構あるんで。
例えば、2曲目の「金輪際」っていう曲は、ライブを観に行くファンの人が主人公の歌詞ですね。主人公は、ブラック企業に勤めてる設定になってるんですけど(笑)「仕事辛いー」と思ってて、でも週末にライブがあるからその日まで頑張ろう、っていう歌詞なんですけど、それもなりきって書きましたね。
なるほど。フィクションの歌詞もあるんですね。
菅波さん 歌詞の「嫌だ嫌だ嫌だ」ってところは、仕事を器用にこなせない自分も嫌だし、状況が変わっていかないのも嫌って思っちゃうけど、昔からライブ好きな友達がいて、ライブでそいつらと会うと気分が晴れて…みたいな。俺はほとんど友達いないんで、そのへんも妄想なんですけど(笑)山田さん そこもフィクションなんだね(笑)
もう一つの菅波さん作詞作曲の「I believe」は、切なくて優しくも、ヒリヒリするような楽曲ですよね。
菅波さん この曲は、“ハガキ職人”の主人公が出てくる『笑いのカイブツ』っていう小説があって。ラジオでお題が出てるところに対して、面白い投稿をする人たちを“ハガキ職人”っていうんですけど、それを生きがいにしてる人の話なんですね。1日100ネタを自分に課して、それに命を懸けてるから、それ以外のことが全然手につかない。「この人の人生、どうなっていっちゃうの?」っていうような壮絶な話で、救いもあまりないんですけど。この小説を読んだときに、夢や希望に向かって進むのは、言葉だけでいうとキラキラしてるんですけど、実際に輝いてるのは1%で、残りの99%は、人を羨んだりとか、逃げ出したいとか、サボりたいとか、そんな気持ちなのかもな、と。そんな時間の積み重ねの先に、輝ける瞬間があるんじゃないのかなと思いました。今回のアルバムは、マツが「聴く人の背中を押せるような曲をたくさん書きたい」って言ってて。マツの歌詞は、夢を追いかけている人を応援する曲も結構あったりするんですね。なので、「I believe」はその裏側というか、少しドキュメンタリーチックに書こうと思って作りましたね。葛藤の部分だけを書いたときに、どうなるのかなと思って。
山田さん 結構、この曲は歌ってて重かったね。曲調もディープな空間系の音がいっぱい鳴ってたりして。
菅波さん THE BACK HORNのアルバムの中でしか聴けない感じって、決して前向きなものだけじゃないんで。そういった曲があると、他の曲ともメリハリがつくので、それを一曲入れられて良かったですね。