シチュエーション的にどん底の時の話ですよね。その当時の気持ちなど聞きましたか。また、将来についてもがいている部分と、なんとかチカちゃんとイチャイチャしたい思いと平行していく中で、気持ちの比重はどのようにされていましたか?
濱田さん 足立監督は、いろいろとご夫妻の経験談をお話ししてくれました。決して後ろ向きなことを言う人ではないんですよね。全部、面白おかしく前向きに話してくれるので、そういう昔の苦労話を聞いたという感覚は全然ないです。前向きな人が執筆した作品だからこそ、ああいうキャラクターが生まれたんじゃないかなとすごく思いました。将来についてもがいている部分に関しては、チカちゃんに朝から晩まで叱られているから、仕事をどうにかしようとしている感じがしました。チカちゃんにモテたいから働くというか、そんな感じがしますね。
脚本家ならではの足立監督の面白い演出だったり、記憶に残っている演出があれば教えてください。
水川さん いっぱいあります(笑)どれを出そうかなと思うほど(笑)
濱田さん 僕の中で一番衝撃的だったディレクションは、家族がバラバラになるかもしれないというシーンで、「泣く豪太」って書いてあって、何で泣いているんですか?と涙の意味を聞きに行ったんですよ。それまでのプロセスだったり、いろいろとイメージを膨らませていって泣こうと思い、ヒントを聞きに涙の理由を監督に聞きに行ったら、「この危機的状況をうやむやにして、丸め込もうとしています」と言われて、こんな衝撃的なディレクションはなかったですね(笑)チカちゃんのことを考えたり、自分の中で膨らませて、そのシーンに臨みました。うやむやにしようとするのが、豪太らしくて何よりもわかりやすいし、自分で書いた人だからこその強力なワードだなと思い、すごく印象に残りました。
水川さん 私はハッとしたいい演出が一度だけあって、あるホテルのシーンで私が裏から忍び込んで豪太に対してすごい勢いで怒るシーンがあるんですけど、テンションマックスぐらいの怒りですごい罵声を浴びせた後に、お風呂に入って「ビールを取って」っていうセリフがあって、そのセリフもテンション上がったまま怒って言ったら、監督が来て「“ビール取って”は、怒らないでください」って言われたんです。何を言ってるのかな?と最初は思ったんですけど、夫婦の日常ってこういうことなのかなって…散々ケンカしたり、言い合ったりしても、次の瞬間食卓を一緒に囲んだりしますよね。女性なので感情的になってしまう部分はあるけど、お風呂に入って、ちょっと状況が変わることで「ビール取って」が普通に言えるなと思いました。芝居じゃないすごく日常に近いところの感覚のヒントを急にくれたような感じがして、足立さんすごいって初めてそこで思いました(笑)
殺伐とした夫婦関係の中で娘のアキの存在がすごく光っていたなと思います。良い親子関係をどんなふうに撮影現場で築いていけたのでしょうか。
濱田さん ダメなお父さんが答えます(笑)ちせちゃんは、いろんな現場で経験されている一人の俳優であって、撮影中もどんな時もママ、パパと呼んでくれて、カットがかかった後も僕らは家族でいるんだと、その家族感を生み出してくれたのは、何よりもちせちゃんの力だと思っています。この夫婦のやりとりをちせちゃんなりに理解して、あそこに立っていてくれたおかげで喜劇になり、この夫婦の間ですくすくと気丈で可愛い女の子として育っているという表現をちせちゃんがやってくれたおかげで、僕らのやりとりを笑えるものにしてくれたかなと思います。
とても生活感のあふれた作品になっていると思いますが、ご自身で提案されたことなどありますでしょうか。
水川さん 最後のシーンの前に無言で私が歩いている時に豪太に「触らないで」って言う場面があるんですけど、台本にはいつものような罵声で書いてありましたが、豪太が本当にやばいって思うようなテンションの言い方をしたほうが良いんじゃないかとは提案しました。監督もそうですねって言ってくれて、そうなりました(笑)
演じられた役に対して、共感できる部分はありましたでしょうか。
濱田さん 台本読んでいて、豪太はよくこんな朝から晩まで怒鳴られ続けても平気でいられるなと思っていました。実際に撮影でも、水川さんと“おはようございます”から始まって、“お疲れ様です”って言うまで僕も怒鳴られるわけで、もしハートの弱い俳優だったら部屋から出てこられない日々だったと思うんですけど、意外と僕は豪太と図太さがシンクロしていたらしく、罵声のセリフでも昨日の“死ね”よりブラッシュアップされたいい“死ね”が出たなといろいろと冷静に受け取ることができてきて、あ〜そういう“死ね”ね。はいはい。というように、幸か不幸かその図太さがシンクロしてしまいましたね(笑)結果、チカちゃんを怒らせたり、水川さんを苛立たせる結果となりました(笑)
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足立監督が続編も作っていけたらとお話ししていましたが、もしお話が来たら、ぜひ引き受けたいと思いますか?もし引き受けた場合に、挑戦したいシーンなどありますでしょうか。