2021.3.10wed
若手映画作家育成プロジェクト2020で選ばれた、期待の若手映画監督にインタビュー!
若手映画作家育成プロジェクト2020で選ばれた、期待の若手映画監督にインタビュー!
3月12日(金)より、ミッドランドスクエアシネマにて文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2020」で制作された短編映画3作品が公開!今回のプロジェクトで選び抜かれた3名の若手映画監督にインタビューしました。
「若手映画作家育成プロジェクト」とは
――作品の題材を選んだ理由と、作品に込められた想いを教えてください。
『毎日爆裂クッキング』植木咲楽監督 食べ物をモチーフにした作品を撮りたいなと思ったところから始まりました。自分が生きている中で社会の状況がどんどん悪くなっているという実感があって、空気は冷たいし、人間関係が重苦しいとかそういった抑圧や圧迫という誰もが感じたことのある題材もテーマにしたく、盛り込んで混ぜ合わせたものを撮りました。『醒めてまぼろし』木村緩菜監督 4年前に元々書いていた脚本があったので、それを30分という尺にして今回撮りました。書いた当時、大事な人や場所が自分から離れていってしまったことがありました。おばあちゃんの家が壊されてしまう話は実際にあった話で、そういう喪失感みたいなものをすごく感じていた時期で、失われていくものに対してどうやって共存していったらいいのか、どうやって自分自身が生きていったらいいのかってことを考えた時に書いた台本で、映画にしたらどうやって作れるかなと思って書きました。
『窓たち』志萱大輔監督 夫婦と恋人の間に落ちてしまったような男女を描きたいなと、まず思ったのが一番の理由です。面倒くさいってポスターにも書いたように、他人と住むのは楽しいことばかりではないと思っています。でも、面倒くさいってことをただ面倒くさいって捉えるのではなくて、そう言えることが悦びのようなものであり、そこに注目して作品を作りました。
――特にこだわったシーンや表現する上で心がけたことを教えてください。
『毎日爆裂クッキング』植木咲楽監督 表現する上で絶対にこれは貫こうと思っていたことは、今回の作品は弱い者の味方にいるということが大事だったので、頑張っている人たちに対して、失礼なことをしていないかとか、表現や言葉一つで傷つけてしまうことになってしまうので、そういう人たちに対して絶対に誠実にあろうと思って作りました。『醒めてまぼろし』木村緩菜監督 こだわったシーンとしては、行き場のなさを表現するために、ボートの上で将棋をしているシーンは絶対に撮ろうと最初に決めていました。教室が海に沈んでしまったカットは、教室だけでなく、おばあちゃんの家にあった木とか、鳥居みたいなものも一緒に沈んでいるのですが、そういうすべて大事な物が沈んでなくなってしまうというようなシーンを大事に撮ろうと考えて撮影しました。
『窓たち』志萱大輔監督 等身大であることは考えて撮影していたと思います。こだわったシーンは、ラストシーン。信号の点滅が赤になって青になるところは、紆余曲折あって付け加えたのですが、目が合うということが、どれだけ大事かというような思いを込めた大事なシーンになったと思います。
――映像表現的にこだわったことや挑戦されたことも教えてください。
『毎日爆裂クッキング』植木咲楽監督 最初に決めていたのが、仕事をしている東京という場所の設定と、もう一つ、神奈川県の三浦半島です。全く別のところに主人公がいて、思いもよらぬ後々助けてくれる女性に三浦半島で出会う、二つの場所を行き来するということは、以前から作品を作っている上で何度かやりたいなと思っていることでした。今回は、東京と取材先の畑と、自分の現実世界とキッチンスタジオと、二つの場所を行き来することの面白みみたいなものがあり、今後も追求していきたいと思っています。『醒めてまぼろし』木村緩菜監督 劇中の中の時間通りに撮影するということを意識していて、早朝は早朝に、夕方は夕方に撮るとか、その時間でしか映しきれない情景のようなものを大事にして撮りたいと思って頑張っていました。元々わかってはいたのですが、電車の撮影が大変でした。電車の狙える時間で狙える場所を撮ることにこだわっただけ、映像が良く仕上がったと思っています。
『窓たち』志萱大輔監督 階段や分かれ道あたりは、やはりこだわっていて、東京の街の中で僕が好きなムードのある坂道とか、そういうものをどう物語とリンクさせて、降りるとか登るといったアクション含め、結構考えて場所を選んで撮りました。中盤あたりで主人公の朝子が一人でお風呂に入って、涙は見せられないんだけど、お風呂の水滴みたいなものが涙にも見えるというような、あまり喋れない思いを水の一粒で表現できないかなとも思い、考えながら撮りました。
――植木咲楽監督の『毎日爆裂クッキング』は、観ていてインパクトがあって痛快な作品だなと思いました。観ている人へそういった感覚を伝えるためにこだわったポイントなど教えてください。
『毎日爆裂クッキング』植木咲楽監督 話の内容が暗いものなので、軽めなテイストにしようと制作陣で話しをしていて、一番は主演の安田さんと話して「重苦しい顔ばっかりになってしまうけど、最後に向かってお互い頑張っていきましょう」と確認し合いました。少し希望を与えてくれる女性の元で卵を割ってしまうシーンがあるのですが、主人公が初めて怒るという感情が少し表へ出て、そこからの流れでラストへ持っていくというような流れをお互い大事にしていて、その結果で痛快さみたいなのが出たのかなと思います。――木村緩菜監督の『醒めてまぼろし』は、主人公演じる小野さんの見せる絶妙な表情とか、感情の表現がとても印象的でしたが、演出はどのようにされましたか。
『醒めてまぼろし』木村緩菜監督 今回、フィルムということもありまして、‟決められた尺がある”、のが大きかったのかなと思いますが、本番など回数をあまり重ねたくなかったので、俳優部とはどんな感情でいくのかなど、言語化して話し合い、なるべく本人がやりやすいタイミングで行って、本番一発でいいものを撮ろうというところで演出をしていました。――志萱大輔監督の『窓たち』は、男女のリアリティをどのように作っていかれましたか。
『窓たち』志萱大輔監督 物語は台本で既に書いてあったので。そこは実体験であったり、勝手な妄想もありつつ、物語を構築していきました。後に台本を役者さんに読んでいただいて、撮影に入るまでにお二人にプライベートな話も聞いて、それを反映させたり、役者さんと近い距離間で撮影に臨めたのも良かったのかなと思いました。それがリアリティにも繋がっているといいなと思います。――キャスティングについても教えてください。
『毎日爆裂クッキング』植木咲楽監督 主演の安田聖愛さんは、オーディションを組ませていただいていて、お芝居を見せてもらった時に言ってくださったセリフが、私の中でストンと落ちた感じがありました。芸能界の荒波の中で10年やっていらっしゃることもあり、大変落ち着いていて、一緒に組んだら頼っていけるような安心感もありました。他の方のキャスティングに関しては、制作会社の方にお願いしたい人を相談したところ、提案していただいた方が私の思っていたような人ばかりで、渡辺えりさんは、名前が出た瞬間にお願いしたいと伝えて、決めていただきました。『醒めてまぼろし』木村緩菜監督 主役のあき子役のキャスティングは、候補の俳優さんたち全員に会って、脚本を全部読んでもらって決めました。小野花梨さんは、最後に面接をしていて、面接時間も一番短かったのですが、会った瞬間にこの人かもしれないなと直感的なことで選びました。吉田役の青木くんはいいなと思っていて、キャスティング担当の方も青木くんを薦めてくださったので決まりました。
『窓たち』志萱大輔監督 主演の小林涼子さんは最初に決まっていて、そこを軸に他のキャラクターをどうやって作っていくかを考えました。森役の関口アナンさんは、別の役でオーディションに来てくださっていて、最初の自己紹介の時に「オーラを見てもらったら緑でした」って言っていて、羽が生えているような軽さをいい意味で感じ、そういう人がこの森という役をやったらいいのではないかなと思って選びました。森は、“優しいお父さんにはなれるけど、いいお父さんにはなれない男”というキャラクターだったので、そういうキャラクターの方がいいなと思って選ばせていただきました。
――30分という制約の中で、映画の余韻を残すように工夫されたポイントを教えてください。
『毎日爆裂クッキング』植木咲楽監督 30分という尺もあって難しかったのですが、最後は今後に希望を持たせられるような形にしたかったです。今回、悪役となった上司役のキャラクターを30分の中で描き切ることに関して、デフォルメが強くなってしまったのが反省点です。それまでにあった主人公・文とのやりとりとか、上司は上司なりの正義で強く当たっていたので、そういうところをもっと描き出せられたらなと思いました。『醒めてまぼろし』木村緩菜監督 どういう見方にもできるような映画になっていると思うので、見る人が見る時の感情によって感じ方が全然違う作品だと思います。自分の心のいいように感じてもらえればいいなと、何かを押しつけがましく言わないように作っていると思うので、だからこそ説明が足りなくてよくわかんないとか思う人もいるかもしれませんが、説明することに重きを置かず感じてもらうことを大事にして作品を作っていけたので、見る人が自由にいろんなことを感じてもらえたらと思っています。
『窓たち』志萱大輔監督 30分は短かったので、どこを省略してどう話を進めていくのかがすごく難しかったです。この映画では、主人公が“子どもができた”と伝える瞬間のシーンは撮影していなくて、映画の前の話として描かれているので、そこをどうわかりやすく伝えられるかと考えながら制作したのが苦労した点ですね。
STORY
〈食〉の情報誌『織る日々』の編集者・相島文は、今日も上司・皆月に強く当たられ、執拗なプレッシャーにさらされていた。文のストレスは募る一方で、ついに味覚障害となり、調味料を常に持ち歩き、無理やり食事をする苦難の日々。文の心はもう爆発寸前。そんなある日、自分の記事を上司の皆月の手柄にすり替えられ、ついに文の怒りはMAXに!
『醒めてまぼろし』
2009年、冬。自宅から自分の学力で通える一番遠い都内の高校に通っている高校2年生の清水あき子。常に睡眠不足のあき子は家で眠ることができず、昔一緒に住んでいたおばあちゃんの家に行って眠りにつく。そんな相変わらず寝不足の電車内で、あき子は吉田と出会うが―。
『窓たち』
美容師の朝子とその恋人でピザ屋のアルバイト森は、一緒に暮らして5年が経つ。冷め切ったわけでもなく、キラキラしているわけでもない二人。そんな彼らの日常を切り取った物語。果たして、二人が向かう未来とは―。
『若手映画作家育成プロジェクト2020』
ミッドランドスクエアシネマにて公開期間
3月12日(金)~18日(木)
時間
連日19:00~
※1日1回、3作品まとめて上映。
料金(税込)
一般1300円、学生・シニア1100円
公式サイト
http://www.vipo-ndjc.jp/
配給
特定非営利活動法人映像産業振興機構(VIPO)
ⓒ2021 VIPO