2022.5.24tue
【大ヒット公開中!】映画『死刑にいたる病』白石和彌監督と主演の阿部サダヲさんにインタビュー!
5月6日(金)より公開中の映画『死刑にいたる病』。映画『孤狼の血』、『孤狼の血 LEVEL2』の白石和彌監督がメガホンをとり、阿部サダヲさん×岡田健史さんがW主演を務めた最新作です。櫛木理宇さんの同名小説を実写映画化したサイコサスペンスで、世間を震撼させた連続殺人鬼・榛村から一件の冤罪証明を依頼され、鬱屈した日々を送る大学生・筧井が真相を明かしていく姿が描かれています。
24件の殺人容疑で逮捕される、日本犯罪史上類をみない数の若者を殺した連続殺人鬼・榛村大和を演じるのは、映画『彼女がその名を知らない鳥たち』以来のタッグとなる阿部サダヲさん。収監されている榛村の元に通い事件の真相に迫る筧井雅也には、ドラマ『中学聖日記』で衝撃のデビューを果たして以来話題作への出演が続く注目の若手俳優・岡田健史さん。
今回は、白石和彌監督と主演の阿部サダヲさんに、製作の裏側や本作に込めた想いをインタビューしてきました!
榛村大和というキャラクターと物語の展開が圧倒的に面白く、チャレンジせざるを得ない作品
――櫛木理宇さんの同名小説を映画化するにあたり、どのような思いがありましたか?
白石監督 映画『凶悪』と入口が似ているので、難しいなと原作を読んで思いました。でも、榛村大和というキャラクターが圧倒的に面白いのと、物語の展開もとにかく面白くて、面会室をどうするか問題はありましたが、これはチャレンジせざるを得ないなと感じました。『凶悪』の時の面会室は2方向から撮影して、ひたすら単純に切り替えしていく手法にしたので、今回は逆に何でもやろうと舵をきれたのも面白かったかなと思います。
――シリアルキラーの話なので、凄惨なシーンなども監督のさじ加減ですごくなると思いますが、監督の中でそのあたりのさじ加減はいかがでしょうか?
白石監督 さじ加減が麻痺しちゃっています(笑)。この前も「こういう描写が好きなんですか?」って言われて、好きなわけではなくて、こういう描写を撮るために監督になったわけでもないです(笑)。みんなの話を聞きながら、ある程度必要そうなシーンは撮影しておいて、あとは編集してみんなに見てもらったりして、加減していきました。
――原作はどれぐらいまで描写があったのでしょうか?
白石監督 原作には映画で入れたかった魅力的なエピソードや描写がもっとたくさんありました。佐村弁護士が途中で榛村の学生時代の事件について話すシーンで事件を描きましたが、実はもう1シーンあったんですよ。それはちょっと酷すぎるので、削りました。
普通の人がおまけに人を殺しているような感じが一番いいんじゃないかな
――得体の知れないキャラクターだなと思って観させていただきましたが、シリアルキラーを演じるにあたって阿部さんの中で何かプランはありましたか?
阿部さん プランは立てないほうが良いんじゃないかな、普通に見えたほうが良いかなと思って、普通の人ですよね。普通の人がおまけに人を殺しているような感じが一番いいんじゃないかなって思いました。
――近づいて信頼関係を築いてからの裏切る時の目が得体の知れないもので…監督の演出などもあったのでしょうか?
阿部さん 細かい演出はなかったですけど、監督も榛村大和のような感じなので(笑)監督の言うことを聞いていたら大丈夫でした。
――あの目をする時のモードとかってあるんですか?
阿部さん 舞台挨拶の時も言いましたが、『彼女がその名を知らない鳥たち』の目がという話で、説明が難しいですが・・・
白石監督 『彼女がその名を知らない鳥たち』の演出の時に「5分前に人を殺した目をしてください」って言ったんですけど、改めて見ると、まあまあそういう目をしているなと思いました(笑)。
阿部さん そうですね。これでしょ、監督!って、ことなんですかね(笑)。
白石監督 どっかで何人も殺しているんだというようなフィルターもあるから、榛村が自然とレジを通過するだけでも不穏な感じになるんで、普通に会話しているだけでも全セリフがこの人いま狙ってるんだなと、そう見えるんでしょうけど、そう思わせるのも阿部さんの力で、そこはもう監督から手が離れているものなので、すごいなと思いました。
――この役を受けるにあたり、一度は役者としてやってみたかった役という話がありましたが、凄惨なシーンの撮影での心境はいかがでしたでしょうか?
阿部さん すごくフラットな感じでした(笑)。これから怖くなるぞとか、そういうことは考えていなくて、普段通りでした。被害に遭っている人たちの演技がすごく良かったので、それは助けられました。演技されるみなさんも辛そうではなくて、「こういう役はなかなかできないから、楽しかったです!」っていう感じで楽しんで帰っていくので、フラットにできましたね。
白石監督 さっきの舞台挨拶では、中山さんの「50/50」の曲が流れていたとも言っていましたよね(笑)。
――撮影の現場ではとても良い雰囲気で進んでいたとのことですが、ここが大変だったなど、共演者の方とのエピソードがあったら教えてください。
阿部さん 僕は本当に大変なシーンはなかったかと思います。根津かおるさん役の佐藤さんが大変だったと思います。特殊メイクもあったりして。そういう意味では、僕は本当に日常のお芝居だったので、全然苦労というのはなかったですね。
白石監督 このへんから出す道具の順番とかね(笑)。
阿部さん そうですね。燻製小屋に武器がいっぱいあるんですよ。
白石監督 何に使っているかわからないスパナとかね(笑)。
阿部さん 監督のアイデアがいっぱい詰まっていますね。そういうのも面白いなと思ってやっていました。看守さんを僕のほうに巻き込んだような会話、『赤毛のアン』を娘さんにあげたとか、現場で思いついてやっていましたね。そこにリアリティがあって、あの一瞬でわかりますもんね。あの看守も取り込まれたんだって(笑)。
――岡田さんとは野球をやっていたような話は出ませんでしたか?
阿部さん あちらがすごい強豪校で、僕らは一回戦で負けたというような話はしていました(笑)。強いんですよね。キャッチャーでしたよね。だから、カーブとか大嫌いだったんじゃないかなと思います。
白石監督 意志の強さがないと強豪校で野球やれないよなっていう感じはありますよね。
撮っても撮っても掴みきれない阿部さんと、とにかく真面目でストイックな岡田さん
――本作を通して改めて、主演を演じました阿部さんと岡田さんの俳優さんとしての魅力を教えてください。
白石監督 阿部さんに関しては2作品目で、『彼女がその名を知らない鳥たち』の時もやっぱり圧倒されて、阿部さんのお芝居の深みを撮り切ったと思ったけど、やっぱり阿部さんのほんの一部分しか撮れていないなと思うことがあるんですよね。今回こそそれをもうちょっと撮り切ろうと思いましたが、終わってみると、全然一部しか撮れていないなと思いました。その撮っても撮っても阿部さんを掴みきれない感じが、榛村大和というキャラクターの見え方と、僕の思う阿部さんの見え方と僕の中に少しシンクロする部分があって、それがとんでもない魅力で、演出家や監督が阿部さんと仕事したいと思う魅力なんじゃないかなと思いますね。
岡田くんは、とにかく真面目でストイックで曲がったことが嫌いで、何より「こういう作品に出たかったんです。僕は本当にいま何に変えても芝居をしたいです」という気持ちをストレートに投げかけてくれる人でした。もちろん、岡田くんの芝居に助けられたこともありますし、最終的には、面会室で全部受け止めた阿部さんと、いい感じで2人のセッションが撮れたのかなと思います。
――会話で印象に残る言葉もたくさん散りばめられていました。特に「BLTO」という言葉ですが、“「BLTO」って言ってごらん”って雅也に言わせるシーンがとっても怖いなと思いました。ちなみに、雅也と同じように鬱屈した時代など、お二人にもありましたか?
白石監督 鬱屈しっぱなしですよ。生まれてもう翌日ぐらいから鬱屈してますよ(笑)。何をやってもうまくいかないし、鬱屈しかしてなかったですね。今は本当に映画をこうやって撮れるようになって、いろんな人と仕事をさせていただいているので、スタッフやキャストのみんなに感謝しながら過ごしています。でも世の中が良くなっているのかと言うと、決して良くなっているとは思えないし、映画界も良くなっているかと言うと、決して良くなっていないし、そういうことに関しては当然鬱屈を抱えながらもなんとかしたいなと思いながら、自分が撮った映画ももう少しこうやっていたらうまくいったのかなとか、後から気づいたりとか、日々戦いながら生きているって感じです。
阿部さん 大変じゃないですか!だからBLTOとか思いつくんですよね、あれは面白かった。確か、雅也の子役の子がなんか間違えたんですよ。Bはベーコン、Lはレタス、何か1個間違えて、そこから始まって面白くなっていったと思います。「BLTO」って言ってごらん?って・・・(笑)怖かったですよね(笑)。
僕は芝居を始める前ですね。岡本健一さんが床に寝そべって、背中で過ごしている作品があるんですけど、僕もそうやって生きている時期がありました。部屋の中を背中を使って動いて「何になろうかな」と考えていて、それを壁に逆さまに書いていた頃がありました。実家に帰ると家にそれがいまだにあります。ちょっとぞっとしますよね(笑)。そういう時期がありましたね。本当に芝居始めて良かったです。
リアルな場所で苦労しながら撮ることが、実は映画にとって重要
――面会室のシーンが最初から最後に向かって中の雰囲気が変わったり、面白い画がたくさんありました。面会室での撮影にこだわられた部分など、注目のポイントなどありますでしょうか?
白石監督 いろいろと試行していますが、結局は阿部さんと岡田さんのお芝居の強さに何をやっても助けられました。お芝居やタイミングに本当に助けてもらって、結果何もしないほうが一番強いなと思った部分は編集でなくしたりしました。
――面会するシーンで、非常に狭い場所だったかと思いますが、どうやって撮影されたのでしょうか。
白石監督 圧迫感ある空間を撮るのは得意なんです。映画のセットは狭く映すことも可能で、例えば、6畳の部屋を4畳半に見立てて撮影することもできます。そういう時もありますが、美術の今村さんに「普通には撮影できるけど、それだと4畳半の空気感には絶対にならない。やっぱり狭い所は狭く作り込んで、邪魔だってなりながら、カメラの置き場にも困りながら、なんとかかんとかして成立させた、そういうごちゃごちゃとした感覚が画に映る」って言われたことがあり、僕も無理に広い所では絶対やらないようにしています。3畳の部屋のシーンがあったら3畳で撮る、そこで苦労しながら撮ることが実は映画って重要なんだなって思っています。これに関しては染みついているので、その中でどう撮るかという方法もいろいろ確立したりして、そういうことを肝に銘じてめんどくさいこともあえてやっています。
――燻製小屋自体は元々あった建物ですか?
白石監督 元々あったのは、水門と紅茶を飲んでいた母屋だけで、あれは実は売家なんです。阿部さんにぜひ買って住んでもらいたいんですけど(笑)。燻製小屋は、広く作ったつもりでしたが、焼却炉を入れたりして結果かなり狭くなりました。母屋と水路の奥に、僕らが大好きな鉄塔があったりと、素晴らしいロケーションで。ここを見つけられたから、大和の造形がすごく広がっていきました。そういうところから発想することが多いので、土地にも助けられました。
――もともと違う場所で探していたんですよね?
白石監督 延期する前は信州で探していましたが、思った所がなかなか見つからなく、緊急事態宣言の影響もあり、もう少し東京から近い地域で探したという経緯もあります。
――キャストの表情も魅力的で、記憶に残る映画になりました。そういったものは意図して撮影しているのでしょうか。
白石監督 意図して撮っていると言えば、撮っていますが、こんな顔をしてくれって言うことはあまりなく、こんなシーンにしたいとは話していきますが、みなさんプロですから、僕が思う以上の表情をしてくださいますし、そこを的確にどこを取り込んでいくかを考えていく、そういうことの繰り返しです。
三重県出身の宮﨑優さんは、撮影現場に2時間くらい前に入るほどすごく頑張り屋さん
――三重県出身の宮﨑優さんも大切な役どころだったと思いますが、キャスティングされた理由を教えてください。
白石監督 オーディションですね。宮﨑さんには失礼になってしまうかもですが、この役はまだ名前があまり出ていない人っていうのが重要な要素の一つでもありました。彼女はまだ映画にもそんなに出ていなくて、挙動不審な感じと言いますか、どう私はこの映画に関わっていったらいいんだろうという立居振る舞いの感じが灯里って役にいいなと思いました。すごく頑張り屋さんで、撮影現場に2時間くらい前に入って一言のセリフでも何度も練習したりしていました。すごく感性豊かな子なので、これからも面白い俳優さんになるんじゃないかなと思います。
最初と最後の同じシーンでも観る前と観た後でがらりと印象が変わる本作に衝撃を受けました。細かい部分までこだわり抜かれた映像表現ならではの工夫にも注目です。阿部さん演じる榛村大和とは一体どういう人物なのか。ラストに待ち受ける本当の真実とは―。ぜひ、劇場でご覧ください。
映画『死刑にいたる病』
- 監督
- 白石和彌
- 脚本
- 高田亮
- 原作
- 櫛木理宇「死刑にいたる病」(ハヤカワ文庫刊)
- 出演
- 阿部サダヲ、岡田健史、岩田剛典、宮﨑優、鈴木卓爾、佐藤玲、赤ペン瀧川、大下ヒロト、吉澤健、音尾琢真、中山美穂 他
PG-12
- 公式サイト
- https://siy-movie.com/
©2022 映画「死刑にいたる病」製作委員会
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