2022.7.15fri
映画『逆光』presents「旅する喫茶 名古屋編」×「アデリアレトロ」の出張喫茶をレポート!
旅をしながらカレーとクリームソーダを作っている出張型喫茶店「旅する喫茶」と映画『逆光』がコラボレーション!1日限定で東海地方初の出張喫茶を人気カフェ「tori8coffee藤が丘」で開催しました。早速、行ってみましたのでその様子をお届けします。
- STORY
- 1970年代、真夏の尾道。22歳の晃(須藤)は、好意を抱く大学の先輩・吉岡(中崎)を連れて帰郷する。先輩を退屈させないために晃は幼馴染の文江(富山)に誰か暇な女子を見つけてくれと依頼して、少し変わった性格のみーこ(木越)が加わり、4人でつるむようになる。やがて、みーこへの眼差しを熱くしていく吉岡の姿に晃は悩むように―。
- PROFILE
- 日本全国を巡ってその土地の食材を使ったクリームソーダやカレーを提供する「旅する喫茶」。東京・高円寺に旅の拠点となる喫茶店を持ちながら、まだ知らない地方の食材や地域の魅力を発見し、より多くの人に知ってもらいたい想いで、様々なエリアを訪れ、地方と東京を繋ぐ活動をしています。
地方を回って宣伝活動をする『逆光』と日本全国を巡る「旅する喫茶」が夢のコラボレーション
北海道から沖縄までの18都道府県25箇所を巡ってきた「旅する喫茶」。各地域の食材とコラボレーションし、その場所だから生まれるおいしいクリームソーダやカレーを提供。その良さを伝えるため、活動を全国に渡って続けています。また、映画『逆光』も作品の公開に合わせて、地方を巡り配給宣伝活動を実施中。映画×地域で様々なイベントを実施し、その地域の人と直接話しながら、エリアに合った宣伝活動を繰り広げています。その土地ならではの新しい出合いや魅力を大切にする、同じ想いを持った「旅する喫茶」と、映画『逆光』がその共通する想いをきっかけに名古屋でのコラボレーションが実現。「旅する喫茶」は、東海地方初出店!とのことで、オープン前から行列ができるなど注目が集まっていました。
クリームソーダを「アデリアレトロ」のかわいいグラスで楽しむ
今回、「旅する喫茶」×映画『逆光』のコラボレーションに加え、愛知県に本社を置き、幅広い世代から支持を集める人気レトロ食器「アデリアレトロ」のかわいいグラスでクリームソーダをお届け。より映画のレトロな世界観をクリームソーダでも表現しました。
今回は、「旅する喫茶」のtsunekawaさんが作る4種類のクリームソーダを用意。どこか昔懐かしい、メロン味のクリームソーダ「懐かし」。澄みわたるような青空をイメージした、青から透明へ移り変わるグラデーションがきれいな「青空」。陽が沈む頃の暖かな色へと染まる空色を表現した、グレナデンとオレンジの味が特徴の「夕空」。今回、オーダーしたのは、星がまたたく夜の世界を表現した、紫からの青のグラデーションが美しい「夜空」。バタフライピーとのことで、花のような爽やかな味わいが、暑い今の季節にぴったりでした。
「旅する喫茶」から生まれた、愛知ご当地カレー
ご当地限定!赤だしを使った味噌ベースの和風キーマカレー「名古屋の赤だしキーマカレー」と、旅する喫茶定番「旅する喫茶のチキンカレー」を用意。それぞれのカレーをあいがけにした「2種盛カレー」も注文可能で、カレーはこちらを注文しました。
「名古屋の赤だしキーマカレー」は、愛知を代表するスパイスが入っていて、親しみのある味わいで、おかわりしたくなる食欲をさらに搔き立てるおいしさ。約15種類のスパイスを使って作られる「旅する喫茶のチキンカレー」は、辛口だけど、バターとココナッツが入っていてまろやかで食べやすく、気付いたらペロっとなくってしまっていたほど夢中になる味わいでした。
店内にも作品のポスターやかわいいグッズがずらり
店内も映画『逆光』仕様に、壁にはポスター、カウンターのレジ横には、作品のグッズが並べられていました。映画の登場人物をモチーフにたなかみさきさんが描いたキャラクターをあしらったグッズにも注目。売り切れてしまっているアイテムもあり、人気のため、気になる人は早めにチェックするのがおすすめ。オンラインショップでも販売中です。
「旅する喫茶」と映画『逆光』とで共同開催された、映画『逆光』presents「旅する喫茶 名古屋編」×「アデリアレトロ」の出張喫茶。多くの人にご来場いただき、地域の人に「旅する喫茶」の味をお届けするとともに、映画『逆光』のことも知るきっかけになる楽しいイベントとなりました。また、今回コラボレーションした映画『逆光』は、名古屋シネマテークで7月15日(金)まで上映中です。
昭和シネマをテーマにした「ぎふ柳ケ瀬夏まつり」も開催!
次は、岐阜柳ヶ瀬 のCINEXにて7月16日より公開がスタートします。映画『逆光』がプロデュースする、昭和シネマをテーマにした「ぎふ柳ケ瀬夏まつり」は7月23日、24日と開催!映画の上映会や昭和歌謡ショーなど、楽しいイベントが盛りだくさん!ぜひ、足を運んでみてはいかがでしょうか。
映画『逆光』
- 公開日
- 名古屋シネマテークにて絶賛公開中!(~7月15日まで)
岐阜柳ヶ瀬CINEXは7月16日(土)より公開!
- 監督
- 須藤蓮
- 脚本
- 渡辺あや
- 音楽
- 大友良英
- 出演
- 須藤蓮、中崎敏、富山えり子、木越明、SO-RI、三村和敬、河本清順、松寺千恵美、吉田寮有志 他
- https://www.instagram.com/gyakkofilm/
『逆光』©2021『逆光』FILM.
映画『逆光』の監督・主演の須藤蓮さん×脚本家・渡辺あやさんのトークショーを開催!
6月25日(土)より名古屋シネマテークにて上映がスタートした映画『逆光』。監督・主演の須藤蓮さんと、『ワンダーウォール』『ジョゼと虎と魚たち』を手掛けた脚本家・渡辺あやさんの自主製作配給作品で、1970年代の尾道を舞台に青年たちの愛憎のラブストーリーが描かれます。名古屋シネマテークでの公開を記念して、監督と主演を務めた須藤蓮さんと人気脚本家の渡辺あやさんが登壇するトークショーが「TSUTAYA BOOKSTORE 則武新町」で行われました。今回が初監督となる須藤蓮さんの想いや、今作でタッグを組むことになった人気脚本家・渡辺あやさんとの出会い、自主宣伝してきた製作チームだからこそ見えたものなど、作品の裏側や宣伝活動について語っていただきました。その様子をお届けします! 映画『逆光』STORY 1970年代、真夏の尾道。22歳の晃(須藤)は、好意を抱く大学の先輩・吉岡(中崎)を連れて帰郷する。先輩を退屈させないために晃は幼馴染の文江(富山)に誰か暇な女子を見つけてくれと依頼して、少し変わった性格のみーこ(木越)が加わり、4人でつるむようになる。やがて、みーこへの眼差しを熱くしていく吉岡の姿に晃は悩むように―。 ドラマ『ワンダーウォール』での出会いがきっかけで生まれた ――須藤監督と渡辺あやさんの出会いについて教えてください。 須藤監督 今回、『逆光』では映画監督をさせていただきました。元々は俳優活動をしていて、僕が初めて出演していた作品が『ワンダーウォール』と言う、NHKの京都発の地域ドラマだったんですけど、その脚本家が渡辺あやさんだったというのが最初の出会いです。元々は、脚本家と俳優という形でご縁をいただきました。 渡辺あやさん 『ワンダーウォール』というドラマは、京都の地域発ドラマで、1時間でドラマを作りたいと私にお話がありました。撮影までの時間がほぼなくて、実はキャスティングしようにも誰も捕まらなく、そこでオーディションをして、脚本の中に出てくる5人の学生を選びました。その中の1人が須藤くんで、そこからのご縁です。実は、そのドラマが京都に実際にある学生寮をモチーフにしたもので、寮が取り壊されるかどうかを大学と揉めている話で、テーマがテーマだけにドラマが終わった後も、その学生寮がその後どうなるのか、私たちとしてはすごい気になるところで、須藤くんは出演した役者の中で唯一、我が事のように学生寮に対してすごく心配をしていました。 そしてドラマによって、このことに対して少しですが世の中の人の注目を集められたので、これを消さないようにしようとの想いで、『ワンダーウォール』を映画版の『ワンダーウォール 劇場版』にしようと盛り上がりました。音楽の岩崎太整さんや、脚本家の私、NHKの方など、みんなやっている仕事がバラバラなので、私が東京へ行ったときにみんなでミーティングをして、劇場版にする話をずっと進めていました。そこになぜか必ず須藤くんがいて、彼は事務所にしっかりと入っている役者さんなので、マネージャーさんとかには止められていた時もありますが、彼はすぐにやめたくなかったみたいで、いつも話し合いに参加していました。 須藤監督 京都の学生寮を舞台にした『ワンダーウォール』という作品に参加したことが、自分にとってすごく大きな体験で、その作品が大学から壊されようとしている学生寮という場所を守ってしまうような、現実を変えてしまうようなことまで、この作品はしてしまうんじゃないかと期待を持っていて、それを成してしまうまでは『ワンダーウォール』という作品が終わらないような気がしました。4年も前に終わってしまったテレビドラマなんですけど、自分の中ではまだ終わっていない作品、そういう志で関わっていたいと思った作品だったので、この作品をより多くの人に届けたい、この作品をどうやったら知ってもらえるのだろうと、現実を変えるために広げていくことと、作品をより観てもらうということが自分の中ではリンクしていく出来事になっていて・・・ 1年ぐらい毎日話していますが、今日が今までで一番トークが下手なんですけど(笑)どうしたんだろう(笑) 渡辺あやさん 名古屋・岐阜というのもあり、小さな作品だったのが、1年間自分たちで自主配給をしているうちに私たちが想像していたよりも活動が面白くなってきて、いろんな方からいろんなことを言っていただけるようになっていて、ついに東海にたどり着いたというのもあり、それですごく緊張しているんだと思います(笑) 須藤監督 気負いすぎですね(笑)。岐阜でも「ぎふ柳ケ瀬夏まつり」が7月23日、24日にあるんですよ。実は、この夏祭りを映画『逆光』チームがプロデュースすることになっているんですよね。自分の映画を広めようと活動していたら、なぜか岐阜で夏祭りをプロデュースすることになったという、その繋がらなさが、自分の中でも整理がつくように、今日は配給活動の説明をさせていただきます。 ――お二人が映画『逆光』を作ることになったきっかけも教えてください。 渡辺あやさん さっきの話にもありました、話し合いに須藤くんがいるなと思っていたら、彼はものを作るということをやりたい人なんだなってことがだんだん見えてきて、役者さんからというよりも興味の持ち方がものを作りたがっている人の感じで、話し合いにも顔を出して、口を出しては、みんなに怒られるようなことを繰り返していました。そして、「僕も脚本を書くので、あやさん読んでください」って、彼が友人と作った映画の脚本が送られてきて、脚本について私にすごく怒られてはまた書き直して、また送り付けてくるということを何回かやっていました。そういうことをしてくる若い人は他にもいて、私もプロなので本気で返していると、大体途中でいなくなってしまうんですけど、彼だけはいなくならずに何回も送り返してくるという根性がありました。 須藤監督 自分の映画をこれから宣伝するときにすみませんが、その時に作った脚本は本当につまらないものでした。渡辺あやさんに知り合う前、役者を志す前に今回の『逆光』の撮影監督をやっている人がその時の映画監督で、僕は出る側で映画を作っていました。遊びのようにその友達と会っては映画を作ることをしていて、面白くない映画を何本か作っていましたが、せっかく渡辺あやさんと知り合えたので脚本を見てもらおうと思って自分の携帯で書いた脚本を送り付けて、ボコボコに言われて、でもめげずに作った60分の映画『only you』が完成しました。なんで僕らが作っている作品が面白くないのかというと、いい脚本がないからだという結論に辿り着いて、そこからいい脚本で映画を作ってみたいって思うようになり、自分で書いた脚本を渡辺あやさんに直してもらうやりとりが始まりました。 渡辺あやさん 彼も忙しいはずなのに、1作を作り上げたので、その根性は認めてやろうって思っていたんですよ。そしたら、次は別の作品を送り付けてきて、それは彼が彼自身の体験を書いているものだってことが読んでわかったので、それは大事にしてあげなくちゃいけない作品だと思って、今までよりも真面目にやりとりをして撮影の準備をしていました。それが2020年の夏で、その時にコロナが来てしまって、渋谷が舞台の映画だったので、撮影はいったん中止になり、彼の仕事もとんでしまい、私も『今ここにある危機とぼくの好感度について』というドラマをちょうど書いている途中でしたが、ドラマもどうなるか分かりませんって言われていてすごくへこんでいたんです。あまりにも元気が出ないから、元気が出ることをやろうと思って、自分たちはものを作る人間だから、ものを作ろうと思いました。1時間くらいの中編の映画なら作れる…監督と脚本という最小単位で始めて、やれるようだったら少しずつ仲間を増やしてやっていこうというような感じで緊急事態宣言の合間を縫って作っていったのが『逆光』です。ただ、この行き当たりばったりの製作が人生で、キャリアの中で一番面白い実験ができたなと思っています。 ――1970年代の尾道を舞台にした映画ですが、本作を尾道から配給した経緯や背景も教えてください。 須藤監督 映画を届けていく活動を配給活動と言いますが、大体の映画は東京で配給活動を始めて、順々にもしくは1ヵ月遅れとかで全国に広まっていく。東京で盛り上げて、その余波を地方に広めていくのが常識なんです。今回映画『逆光』の配給を手伝ってくれている関谷さんも元々六本木に会社のあるアスミック・エースさんで配給活動をされていました。その従来の東京からのやり方ではなく、せっかくなら尾道でやるのがいいんじゃないかなとの思いで始めました。これを東京の知り合いのプロデューサーに話したら、誰一人として賛成してくれなくて、リスクが高いと言われたんですよ。 僕も配給会社に最初は作品を持っていて、まさか自分でこの映画を届けるということになる未来は想像していなかったですよ。なので、誰かに託してやってもらうことも考えていましたが、渡辺あやさんが尾道から公開したらいいんじゃないかとおっしゃっていたこともあり、それを配給会社に相談していましたが、東京以外の地域の数字が東京に比べて少ないかを見せてくれて、例えば東京で2万人を動員したら2億円の興行収入、尾道で3週間上映して30人と、いかに今やろうとしていることが無謀なことだと説得を受けたんですよ。それを見て、変だなって思ったのが、『逆光』を製作する過程で尾道の30人くらいの人とは知り合いになっていましたし、僕らの映画は尾道でやって30人ってことはないだろうと思って、今の世間で言うと常識的じゃない、効率的じゃないっておっしゃいますが、そこに自分にとってすごく重要なものが詰まっている気がして、尾道でやってみたらいいんじゃないかとの一言をとにかく信じてみようと思って、信じてみたらどんなことが起きるのか、見てみたかったんだと思います。 渡辺あやさん たぶん勝算があって言ったことではないですが、私は島根県に住んでいて、地方に住んでいる市民として東京の人たちが思っているほど、地方都市の文化って冷えていなくて、私は東京の人ともお話する機会がありますが、人口に対して映画に興味を持っている人の割合とか、熱量とかはそんなに変わらないと思っています。京都や尾道でも映画を観ていただき、感想をうかがいましたが、東京でお話をする業界の人たちに負けないほどの深い意見だったり、すごく興味深い指摘をいただくことが多い気がします。 須藤監督 最初に尾道でやった試写会では、これから僕らは尾道で映画を公開していくので力を貸してくださいって、いろんな尾道の方を集めて行ったのですが、この直前に東京でも試写会をやっていて、そこで結構評判が良くて、これは尾道でやったらすっごい誉めてもらえるぞと思っていたら、車座になってここで突然質問攻めに合うんです。なんでシネスコにしたんですか?とか、なぜ細長いスクリーンを選択したのかとか、なんでこの色味にしたの?とか、東京ではいいんじゃないって言われたけど、ここではそれではすまなくて、この次の日に映画監督はもう辞めようと思って寝込むぐらい、それくらい尾道の人の文化感度って高いんですよね。 渡辺あやさん 尾道はとくに大林監督の影響もあって、本当に街の人たちが映画に対して尊敬が深いと言いますか…(泣いている須藤監督の写真を見て)これは、泣いている須藤監督ですね。 須藤監督 一生懸命映画を作ったのに誉めてもらえなくて、泣いている新人監督の図ですね(笑) 渡辺あやさん その翌日には尾道の市長訪問も予定していて、その時にあまりにも須藤監督が腑抜けだったので・・・ 須藤監督 腹に力入れてって腹パンされた記憶があります(笑) 渡辺あやさん いろんなことをやってきましたが、とにかく尾道から始めるんだって気持ちで、試写会をしました。業界での試写は記者の方を集めて記事を書いていただくためにするんですが、どちらかというと街のみなさんに観ていただいて、街ぐるみで盛り上げていくためにはどうしたら良いのか相談するような場にしていました。これは全国各地でやっていこうと思っていて、みなさん自分ごととしてこの映画について考えてくださいました。そしたらある時から須藤くんが、「俺は尾道に2カ月くらい住み込んでやるんだ」って言いだしたんですよね。 須藤監督 どうしても30人というのが耳に媚びりついていて、どうしたら30人ではない結果を尾道から公開することで見せられるのかと、小さい脳みそを絞ってみたんですけど、映画の宣伝なんてもちろんやってみたこともなく、劇場がどうやったら映画を流してくれるかとかも全く知らない状態で始まったので、とにかく行ってみて友達たくさん作って全員劇場に来てくれたらひどいめに合わないじゃないかと、そういうことを実現するには、行って泊まるしかないなって思ったんですよね。ある意味浅はかな考えなんですが、とにかく全力で2カ月間その場にいて、毎日宣伝してみるってことをやってみようと思いました。ポスターを300枚くらい持って行って商店街の全部のお店をノックして貼ってみるとか、もうめちゃくちゃ泥臭い宣伝を尾道からやって、その中でいろいろな宣伝プランを考えていきました。 街の方たちからどんどんアイデアをいただき、「逆光ブレンド」が誕生 渡辺あやさん 街の方たちからどんどんアイデアをいただけるようになってきて、リアカーでコーヒーを配ればいいんじゃないって言われて、“フリーコーヒー”を尾道でやってみたら、ここに人が集まってくるようになって、対話がそこに生まれて、それが良かったんですよね。そこで、今度はその対話をイベントにしようと思って、“ダイアログ”というただ対話するイベントで、1つの場所で7人くらい集まって、議長を1人決め、その議長がいま切実に悩んでいることを議題にし、それに対して参加者がそれぞれに意見を言うというもので、ディベートとはまた違っていて、マウンティングみたいなのは禁止で、対話なのでいろんな人がいろんな意見を持っているのを確かめ合うようなイベントを尾道、広島、京都でもやりました。本当に映画の宣伝としてはわかりませんが、参加した人たちがこんな体験は初めてしたと言っていたことが印象的で、飲み会でもこういう話はできなくて、学校とかでもできない、普段はあまり喋らないけどここではこんなに喋れましたと言って帰っていくとか、いろんな場所でいただいたアイデアがイベントになったり、さらに他の土地に持って行ったらそれが進化するようなことがあったり、いろんな街でやっていく面白さだったように思います。今まで業界でやられていた、予算とポスターとチラシだけを各劇場に送って、予算内でできることをやってくださいという宣伝活動では絶対に生まれなかったことだなと思いました。グッズで販売している「逆光コーヒー」もその一つ。 須藤監督 広島で宣伝活動をしている時に、今までの映画の広げ方とは全く違う広げ方をすることで、普段劇場にはなかなか足を運ぶきっかけのない人たちに映画を観てもらおうということをずっとしようと思っていて、今までに見たことのないものをとにかく実験のようにしてきました。「逆光コーヒー」というのは、広島にある人気のコーヒーショップ「マウント コーヒー」の方と僕が知り合った時、とにかく映画を観てくださいって言って、何か一緒にやりましょうって話をふって、そしたら映画の感想をコーヒーのブレンドとして表現してくださって、それが「逆光ブレンド」です。 渡辺あやさん 映画を観た印象をその方はコーヒー語という言葉を使っていましたが、コーヒーで表現するとこんな感じですって、映画の印象をコーヒーで現すというような聞いたことも見たこともないコーヒーをいただいて、コーヒーに詳しいわけではないですが、飲んだ瞬間にこれが『逆光』かもしれないと思う不思議な体験をさせていただきました。お店の方がおっしゃるには、これを映画の公開前にお店で出して、予告としてコーヒーを飲んでもらう、コーヒー予告とおっしゃられていて、映画を観た人がまたそのコーヒーを飲んで、その印象を確かめるという、映画がそんなふうに次の表現に次の形に展開されていくというのが、私はこの仕事を20年くらいやっていますが、初めて聞いたし、初めての体験だなって思って、やってみたら本当にいろんな場所でいろんなことが起こって、とても面白いなと思っています。 名古屋や岐阜でも映画とコラボしたイベントを開催 関谷さん ちなみに、その「逆光ブレンド」は名古屋でも飲めまして、映画が上映される名古屋シネマテークさんから歩いて1分くらいの所にある「シヤチル」さんで、「逆光ブレンド」と逆光ブレンドを使った「コーヒーフロート」を販売中です。パネル展もやっていただいていて、一つひとつの写真に対して須藤監督が手書きで思い出とかコメントを書いてありますので、映画を観る前や後にぜひ見に行っていただけたらと思います。 須藤監督 先ほどの映画が映画じゃない方向に広がっていく話がありまして、パンフレットも会社に頼んでいるわけではなくて自分たちで、尾道でライターをやっている方と作りました。デザインや何を載せるのか、話し合いながら作って、全国まわっていてもなかなかこんなパンフレットはないと人気になっているもので、それが今度は岐阜のお菓子屋さん「テト」さんが、このデザインをモチーフとしたお菓子にしてくださったりとか、そういう広がりもしています。 渡辺あやさん 自分のキャリアの中でなかなか体験できなかった、純粋に自分が作りたいものを作っていて、普段はプロの脚本家として活動しているので、いろんなところからお話をいただいて、NHKでは企画会議にこの作品をなぜ今やるのかなど、企画書に書けるようなことを考えて、企画意図に叶う企画を考えて作るですが、コロナの中で自分たちが見たいものや作りたいもの、どの会議にも通さなくていいので、純粋にやりたいからという想いで作ったらどうなるのかという実験が始まって、すごく純粋な形でできたなと思います。そういうものが持つ力が必ずあるように思っていて、すごく純度の高いものを届けて、受け取った人がこれだったらできるって、その人の表現を呼び覚ますような力があるんじゃないかなとこういう仕事をしながらずっと思っていました。ただ、映像を作るというものはなかなかお金がかかるものなので、そういうことはなかなかやらせてもらえなくて、自主製作といって自分たちでお金を出しているものだからこそできているのかなと思っています。そして、そういうものをいろんな街でいろんな方へ届けていったら、どういう表現が出てきたかなって、パンフレットもそうですし、普通に仕事としてオファーしたら、なかなかここまで凝ってくれなかったり、時間をかけてもらえないだろうと思います。それぞれの方が主体的に関わってくださっているからこそ、いろんなことが起こっているなと思って、主体性をいろんな人から引き出したかったなと思います。 主体性や能動的に関わることで、みんなでポテンシャルを上げていく 須藤監督 主体的に動くということが自分はできなくて、いまだにきれいな言葉にできないですが、人には受け身と能動態と2種類のエネルギーがあるような気がしています。映画宣伝は東京からしていって、こういうふうにしたら、こういう結果が見込めますと、そういう説得されやすい情報って、その情報を受け入れるような感覚で、結果が見えている成功に向かって足を動かすような、実は何かをやっているようで実は受け身の態勢でやっているような気がしていて、僕はその態勢がどうしてもとれなくて、受け身でやっているとポテンシャルが落ちるというような変な特性があり、自分はそこに敏感なんですよね。なので、自分がそうであるように他の人もそうであるならば、どれだけ能動態に関わってくれるのか、それこそが映画が広がっていく、映画を作っていく、生きていくことだったり、そういう姿勢のようなもの共有していくのが、自分のテーマにもなっています。パンフレットもデザイナーにお願いして印刷にかければ、本当に4日、5日で終わってしまうこともできますが、それが嫌だなって、効率的にすることでなんか失っているものがあるように思います。特にこういう物販とか、映画のポスターやチラシにも映画を作って届ける一つひとつの手順の中に多く見落としているものもあるかもしれないということを、それが非効率であっても見てみたかったんですよね。そうだったことを思い出しました。 渡辺あやさん 私も見てみたかったです。本当に私たちは自主配給としてはド素人で、初めてのことで行き当たりばったりなので、お願いしますと各地の方のお力を借りてどうにかこうにか今日までやってきて、本当に各地でいろんな方が頑張ってくれて、ついに東海に辿り着くわけです。東京の公開の時に私のところにインタビューの依頼がきまして「14歳の君へ」という、中学生へ向けて考えていることを話してくださいという企画だったんですが、インタビューとかは苦手で普段はあまりお受けしていないんですが、これは自主宣伝配給なので、露出したいなと思ってお受けしました。そこで関谷さんが岐阜新聞に載ったのを見てくださって、関谷さんはもともと10何年か前にアスミック・エースさんで働かれていましたが、『天然コケッコー』の配給を担当してくださっていて、結婚を機に退職されて岐阜で主婦をされていたんですよね。十何年ぶりに「あやさん、記事を読みました」とメールをくださって、映画宣伝の仕事が好きで復帰したいけど、岐阜だとなかなかチャンスがなくてと書いていらっしゃって、私はチャンスだと思って、自主配給をやっていることを伝えましたが、なかなかお手伝いしてくださいと言うことができなかったのですが、関谷さんからお手伝いさせてくださいと言ってくださって、できる範囲でご無理ないようにお願いしたら、元プロの勢いですぐに動いてくださって、私たちもびっくりしました。さすが関谷さんはすごいなと思って直接会いに行って、名古屋と岐阜をまわらせてもらいました。名古屋のほうが大きい街なので、名古屋中心にやっていくかと思いきや、そこで柳ヶ瀬の存在が現れました。 “映画の街、柳ヶ瀬”でレトロ映画祭り「ぎふ柳ケ瀬夏まつり」を実現 関谷さん 私は名古屋の出身で、都市部なので人数もたくさんいますし、公開するならきちんと通常の映画宣伝をすれば、名古屋のほうが数字が上がるのはわかってはいたんです。私自身、映画宣伝に復帰したい想いがありましたが、なかなかうまくいかず、それがすごく悔しくて、岐阜で名古屋に負けないような面白いことがやりたいなと思っていました。映画が1970年代を舞台にしていることもあって、柳ヶ瀬商店街の昭和レトロな感じと合って、今ちょっとずつ元気が出てきている商店街を映画の力でまた元気にできたら面白いことが起きるんじゃないかなと思いました。商店街のいろんな方に声をかけ始めたのがスタートで、やっぱり柳ヶ瀬商店街は古くからある場所なので、大人たちの間で話を進めるのが難しく、辞めたほうが良いというご指摘も受けましたが、何か突破口があるんじゃないかと思って、とにかくいろんな方に声をかけて、つながることができた一人の商店街の理事の方が「映画の街でした、柳ヶ瀬は」と言っていただいて、そこから話が進みました。 渡辺あやさん 私たちも何もプランもないままとりあえず行ってみて、いろんな方にお会いして、特に須藤くんがどういうことをやりたいのかとアピールする力が強いので、興味を持ってくださった方から提案をいただき、そこへこちらが全力で食いつくようなことを繰り返し、ついに柳ヶ瀬に。私たちも最初、岐阜に昭和レトロなすごい商店街があると聞いて、70年代を描いた映画となんか面白いことができるんじゃないかなとふわっとしたイメージだったんですが、それが映画で商店街を盛り上げたいと思うみなさんの心が一つにまとまって、じゃあレトロ映画祭りをやろうと1つ決まりました。やると決まったからには、見たことのないような面白いものにしなくてはという、途中から本気モードに切り替えて、これまでいろんな街でやってきたイベントの手ごたえをこの柳ヶ瀬夏祭りに転換するとどうなるだろうって考えたのが、この昭和歌謡ショーです。みなさん、ご存知の歌謡を歌の好きな方に歌ってもらうショーになりますが、着想は東京で一番最初に始めたゴーゴーパーティーから。これも私が言い出したんですが、劇中にもゴーゴーを女の子が踊るシーンがあって、実際に当時のファッションで女の子に踊ってもらったら、当時の人たちにとってこれがどれだけ楽しかったかということが体感として迫ってくる感じがあったんですよね。今は最新のものがおしゃれだとどこか信じこんでいますが、実はそうではないんじゃないかと思って、単なるレトロではなく、まさにここに起こっている風俗として、当時のファッションで当時の音楽で踊ってもらったら実は楽しいんじゃないかと、過去の時代に生きていた人が楽しかったものだけど、今の人たちにも楽しいものなんじゃないかという実験をどうしてもやりたくて、ゴーゴーパーティーやろうって言って、東京と京都でやってみました。 須藤監督 渡辺あやさんの思いついたことが最初は理解できなくて、ゴーゴーパーティーやったらいいんじゃないかって言われて、今でこそ若い人がレトロな恰好をして踊ることを楽しむイベントってわかりますが、最初は言葉とアイデアだけが目の前に突然現れて、それをどう形にするかはわからなかったです。わからないけどやってみると毎回面白くて、例えば昭和歌謡ショーを渡辺あやさんがやろうっておっしゃった時もなぜ昭和歌謡ショーをやりたいのか最初わからなくて、でもこれをなんとか形にしたら面白い景色が見られるんじゃないかと思っています。昭和歌謡ショーはとにかく面白くなりそうです。 渡辺あやさん 私たちの文化って前の時代に対するマウンティングで新しい文化が現れて、過去って敗北していった文化のようなイメージもありますが、実はそんなことはなくて、過去のものを一緒に楽しむってすごく平和なことで、あらゆる世代の人が1つの曲に一緒の気持ちで盛り上がれるってすごくハッピーなことだなってゴーゴーパーティーの時に思ったんですよね。これがきっと昭和歌謡ショーをやった時も起こるんじゃないかと思っていて、出演者の方にも当時のファッションを古着でスタイリングして、メイクも変えてやります。実は私もこんなにやろうって言っておきながら、全然スキルもありませんので、『ワンダーウォール』のドラマを一緒にやっていただきました岩崎太整さんという、有名な音楽家の方がいらっしゃって、お忙しいのでお願いできるような方ではないのですが、お願いしてみたら、全然快く楽しんで興味を持ってやってくださることになり、今は岩崎太整さんと私たちで歌い手の選出から曲目とやっています。カラオケではダメなので、新曲の生バンドを用意しましょうって岩崎さんがおっしゃって、なかなか高いハードルですが、プロとしてやるからには絶対に成功させたいし、お祭りのためにも見に来た方が感じたことのないような、昭和歌謡ショーって本当にいいなと思ってもらえるようにしたい。そこで、これだけの奏者がいりますとか、これだけの練習期間がいりますとか、ものすごくハードルをどんどん上げられたんですが、岩崎さんのような一流の方が最後まで監修してくれるこんな機会はないと、チャンスなのでやりますと関谷さんがおっしゃてくださって、その日からいろんな人に掛け合ってくださり、準備も整いつつあります。これまでやってきた経験値がここで集大成を迎えられると思っています。美川憲一先生もお越しいただけます。 関谷さん 美川憲一さんには、7月24日(日)歌謡ショーをしていただいた後にトークショーもしていただきますが、その相手を須藤監督と渡辺あやさんにしていただきます。お二人もどんな衣装で出られるのかもご期待くださいませ。とても楽しみにしています。 名古屋・岐阜での活動は、一つの集大成 ――最後に一言ずつお願いします。 渡辺あやさん ついこの前に福岡の公開を終えたばかりで、やっと名古屋と岐阜が始まるぞってことで7月23日と24日のお祭りに向けてこれからは準備していきます。実は私は別の連続ドラマの締め切りを抱えていて、ここにいてはいけないのですが、そちらも頑張りつつ、まずは歌謡ショーを成功させべく頑張りたいと思っています。私たちもどうなるか分からないままやっているところもあり、でも絶対に面白くなるというわくわくだけが止まらなくて、ここから1ヵ月を過ごしていくんだなと思うと、楽しみでなりません。ぜひ、岐阜でもお目にかかれたらと思いますし、楽しんで見守っていただけたらと思います。どうもありがとうございました。 須藤監督 言葉が消えるという感覚をたまに得ることがあって、今日は久々にこの感覚を得たなと思います。『逆光』が完成して以来、自分が自分の言葉で語ることがなかなかできないという感覚を久しぶりに得たなと思って、それはこの活動が新しいフェーズに移るタイミングだろうなと思っています。岐阜の柳ヶ瀬夏祭りもそうですし、名古屋でこれからやろうとしている宣伝活動において、まだ言葉を重ね慣れていない試みに入っています。僕の中で宣伝のテーマが1つあって、映画を広げるということを本気で目指し始めたという、尾道から始めて新しい局面に入っていて、その一つの集大成として夏祭りがあるんですが、それが何であるのかは終わってみるまでは分からなくて、だからこそ、これから名古屋で起きることや岐阜で起きることは初めて尾道・広島で公開を迎えられたことと同じくらい新鮮で楽しくて、だからこそ思考停止が許されない苦しさを伴うようなすごい刺激的な宣伝活動にこれから先もなっていくんだろうなと改めて思えて、すごくうれしいです。これからもすごく面白いことになると思うので、もしよかったら温かく見守っていただけたら幸いです。今日はみなさん、足を運んでくださってありがとうございました。 名古屋シネマテークで絶賛公開中の映画『逆光』。須藤監督と脚本家の渡辺あやさんが『ワンダーウォール』という作品で出会ったことから生まれた本作。自主宣伝してきた製作チームだからこそ経験できた面白いことや、人とのつながり。映画を作り終わった後の届ける過程まで大切に自分の言葉や表現で伝えていく、自主製作配給作品ならではの楽しみ方や広がり方、名古屋や岐阜でもこれからどんどん盛り上がっていく宣伝活動に目が離せません。岐阜では、岐阜柳ヶ瀬 のCINEXにて7月16日より公開予定。またトークショーでも話されていました昭和歌謡ショーが見られる「ぎふ柳ケ瀬夏まつり」は7月23日、24日に開催です。ぜひ、お楽しみに! 映画『逆光』 公開日名古屋シネマテークにて絶賛公開中! 岐阜柳ヶ瀬CINEXは7月16日(土)より公開! 監督須藤蓮 脚本渡辺あや 音楽大友良英 出演須藤蓮、中崎敏、富山えり子、木越明、SO-RI、三村和敬、河本清順、松寺千恵美、吉田寮有志 他 公式サイトhttps://gyakkofilm.com/ 『逆光』©2021『逆光』FILM. ※掲載内容は2022年6月時点の情報です。 ※新型コロナウイルスや天候の影響で、開催予定のイベントは、中止・変更になる場合があります。主催者の公式サイト・SNSで事前に確認して、おでかけください。
映画『逆光』presents「旅する喫茶 名古屋編」×「アデリアレトロ」の出張喫茶が「tori8coffee 藤が丘」で開催!
地方の食材や地域の魅力を発見し、より多くの人に知ってもらうために地方と東京を繋ぐ活動をし、全国を旅しながらカレーとクリームソーダを作る「旅する喫茶」が映画『逆光』とコラボレーションして、東海地方初の出張喫茶を開催。さらに、幅広い世代から支持を集める愛知県に本社を置くレトロ食器「アデリアレトロ」のかわいいグラスでクリームソーダを提供し、映画の世界観を表現した昭和レトロの世界へお連れします。 メニューには、映画『逆光』をイメージしたクリームソーダ(1000円)の他、岐阜県の食材を使用したカレーライス(1500円)も登場。場所は、藤が丘の人気カフェ「トリハチコーヒー」の定休日にお店を借りて、1日限定の『逆光』POP-UPショップに変身!当日は、映画のおしゃれなグッズも店頭に並びます。 名古屋シネマテークでの映画『逆光』の上映は、7月15日(金)まで、7月23日(土)、24日(日)は映画『逆光』チームがプロデュースした「ぎふ柳ケ瀬夏まつり」も開催!映画の世界観とともに、今しか体験できない出張喫茶や夏まつりをぜひ、お楽しみください!
映画『逆光』監督・主演を務めた須藤蓮さんにインタビュー!
6月25日(土)より名古屋シネマテークで公開される映画『逆光』。監督を務めたのは、今作が監督デビュー作となった俳優の須藤蓮さん。NHK連続テレビ小説や大河ドラマなどの話題作に出演する俳優でもありながら、映画監督として新たな挑戦を試みる姿に注目が集まっています。6月からの名古屋での映画公開に向け、須藤蓮さんに作品の魅力や込められた想いをインタビューしてきました。 映画『逆光』STORY 1970年代、真夏の尾道。22歳の晃(須藤)は、好意を抱く大学の先輩・吉岡(中崎)を連れて帰郷する。先輩を退屈させないために晃は幼馴染の文江(富山)に誰か暇な女子を見つけてくれと依頼して、少し変わった性格のみーこ(木越)が加わり、4人でつるむようになる。やがて、みーこへの眼差しを熱くしていく吉岡の姿に晃は悩むように―。 渡辺さんとの共通言語は、好きな映画『君の名前で僕を呼んで』 ――映画を制作するまでの経緯を教えてください。 須藤蓮さん テーマを決めたのは、実は脚本を担当していただいた脚本家の渡辺あやさんで、コロナ禍に制作を決めた映画だったので、出られる役者から考え始めました。コロナがどういう病気なのかもわからなくて、かかったら後遺症が残るとか、何も整理されないままそういう情報が出回っている時で、それでもいま映画を撮るということにのってくれる役者を考えて逆算した時に、まず、僕は出られるなと思って、あとは、渡辺あやさんの脚本で、僕がメインキャストを務めた『ワンダーウォール』で一緒にメインキャストを演じたうちの1人、中崎くんもきっと出てくれるだろうと思いました。 そして、僕、中崎くんの2人の並びを考えた時に、そこに富山えり子さんがいたらいいんじゃないかなと渡辺さんと話して、僕は舞台でご一緒したことがあったし、すごく好きな役者さんなので、その3人が先に決まりました。 それで、どんな話ですかと話していたら、「それは青年同士の恋愛じゃない?」ってあやさんが言って、その時になるほど!って思って、そのテーマにすごくしっくりきて、それでいきましょう!となったのがテーマを決めたきっかけです。 いま、こういうことを描くべきですとか、そういう順序ではなかったです。映画『君の名前で僕を呼んで』が僕も渡辺さんもすごく好きだったので、その共通言語みたいなものがあったのも大きいかもしれないですね。かつ、渡辺さんがそれまで何度も描いているテーマではないもの。実は、僕と渡辺さんが撮ろうとしていた映画がコロナで撮れなくなってしまったことから、別の作品を考え出したのが『逆光』なので、そのテーマともかぶらず、いまの状況の中で企画を立ち上げました。なんでもできるところから決めたわけではなく、今撮れるもので一番いいものを考えていった結果、そういうふうになったのが経緯。 ――映画を作るきっかけとなった脚本家・渡辺あやさんとの出会いとは? 須藤蓮さん 渡辺あやさんは、めちゃくちゃすごい面白い人で、僕が思うこういう作り手の人がいたらいいのにって思っていたままの人で、初めて会った時は、こんな人いるんだって衝撃を受け、こういう感じになりたいなと思いました。一番近くで勉強をしたくて、最初はとにかく脚本を書いて持って行くところからコミュニケーションがスタート。1日で書いたものも恐れ多くも送ってみたりしていましたが、「そんなものでは表現ではない」などと言われたり、いろんな話を聞きながらやりとりを重ねるうちに、自分の脚本を送って直してもらうやりとりが始まって、それが『逆光』の前に準備していた『blue rondo』という作品でした。脚本は完成していたんですが、コロナ禍で撮れなくなってしまったので、いずれ撮影するこの作品の練習もかねて、コロナ禍で作ろうとなったのが『逆光』。以前に出演した『ワンダーウォール』という作品に僕はすごく懸けていて、一つの作品は世に出たらそれで終わりですが、『ワンダーウォール』を届けていく過程でいまの『逆光』のような活動をやりたく、上映する地域に行って、話をするイベントとか立ち上げようとしていましたが、それがコロナ禍でできなかったんです。本作では吉田寮生に出てもらっていたりと、『ワンダーウォール』の不完全燃焼を爆発させたのが『逆光』ですね。 渡辺あやさんの脚本は、へこむくらいめちゃめちゃすごい! ――そんなすごい脚本家・渡辺あやさんの脚本を読んだ感想や、一緒に制作してみていかがでしたか? 須藤蓮さん 一緒に企画からやったことがなかったので、思いつきでぽろっと話していたことがこうやって構成されていくんだと、めちゃめちゃ新鮮でした。脚本もすごく面白かったですね。はい、きた!って感じでした。脚本もめちゃめちゃしっくりきました。引用の使い方も、例えば三島由紀夫のこの引用は使うと決めていたものがあったんですけど、それがどういう形で出てくるのかとか、僕は想像がついていなかったので、脚本という形で来た時に、本当にさすが!って、感じでした。やっぱりやっていて思うのは、本当に才能がすごいと思いますね。才能って言葉以外にあんまり表現ができないんですけど、僕がちょっとへこむくらい、やっぱり、めちゃめちゃすごい! 生きていく中で理屈ってあるじゃないですか、右脳と左脳のような、感覚と論理のバランス感覚のようなものがちゃんと両輪で、いい具合に感覚のほうがちょっとだけバランスが高いような、その両方を巧に操れる人ってなかなか見たことがないので、感覚と構成の理屈というものを完璧に行き来し、ものを作る上で完璧な人です。脚本を書く上で、そこのバランス感覚とか、置き所みたいなのが、言語化できないですが(笑)本当にすごいなと思いました。 映像が持っている光の印象に合わせて付けた音楽 ――映画に寄り添う音楽も印象的でした。音楽はどのように生まれていったのでしょうか? 須藤蓮さん 音楽は、ある程度編集ができているものを大友さんへ持って行って、僕が勝手にイメージしていたものを、例えばパーティーのシーンはこういう感じの音楽だよねって事前に決めていたのをお渡しして、聴いていただき、大友さんの体を通して生まれていきました。例えば『君の名前で僕を呼んで』の音楽とか、結局その音楽は使わなかったですけど、タイトルを20個くらい書いてお渡ししました。「若さのきらめき」とか「海」「みーこのテーマ」「みーこの失踪」「永遠の一瞬」など、1つずつ曲のタイトルが実はあって、タイトルを付けてお渡しして、そこからインスピレーションしたのをいただいて、足し引きして生まれました。 言っても2人とも本物なので、僕が言ったことよりもすごいものが来ました。大友さんもすごいですよね。僕はあんまり音楽に詳しくないですし、脚本も書けないので、すごい人たちのすごいところを借りている感じです。アルペジオがいいですねとか僕は言ったりしていましたが、音楽に関して大友さんは、映像が持っている光の印象に音楽を付けたとおっしゃっていましたね。 ――美術や衣装もきれいで目を引きました。こだわった部分など教えてください。 須藤蓮さん 美術や衣装は尾道の古道具屋さんを1軒1軒美術部や衣装部の方と回りながら、1個ずつ選んでいきました。美術と衣装はすごく自分でもこだわりたかった部分でもあって、蚊帳の色を決めるのに時間をかけたりとか、3色借りてきて全部合わせて決めたりとか、いまも宿で使っている建物を一棟貸しして、電飾などそこにあるものを全部入れ替えました。 自我に囚われやすくなる監督とOKを出してほしい役者としての葛藤 ――今回、監督と主演を両方務められていて、その大変さや苦労はありましたか? 須藤蓮さん 監督としてこうしてほしいと自分が一番わかっているんですけど、できない時があるので、ずっと引き裂かれる感じがしました。見えているのに体現できない時が生じて、たぶん違うなと内心わかっていても役者の僕はOKが出てほしい、それを自分で判断がつかなくなって他の人に言ってもらって、やっぱりだめだよね、頑張ろう、ってやっていました。 ――役者の自分と監督の自分と常に2人いるような状態なのでしょうか? 須藤蓮さん 同じ人ではありますが、判断する部分が違うような感じです。少し低い位置に役者の自分がいて、なんとか乗り越えたいと思っているんですけど、監督としては高いところから指示しなくてはいけない状況もあって、2人いるに近い感じかもしれないですね。演じている自分がいて、それをOKかけてから見て、わぁ、僕の芝居…違うってなるわけですよ。僕の芝居が違うけど、他の人の芝居が良いとか、トータルで見て、自分の役者のクオリティだけを見ているわけにもいかないから、でも自分の芝居に目がいってしまうのはやっかいだったかもしれませんね。面倒なことが多い(笑)!自我みたいな、承認欲求とか、そういうものに囚われやすくなる、すごく自分の人生にとっての修行みたいなもの感じました。役者として良い芝居をしたって言われたい、けどそんなことはしていなくて、そういうものから解放されたいけど、それをするにはそういう形を得ないといけなかったのかもしれないですね。 ――自分の芝居が違うって感じるのは、目指す芝居があるからなんですね。 須藤蓮さん 見るとわかるって感じです。見て、あ、違うってなります。理想的な芝居っていうのはあって、流れですね。空気が作為の中で止まらない、人の無駄な意識がそこに滞在していないと言いますか、かっこよく見られようとおしゃれして行ったりするじゃないですか。でもそれって、おしゃれしようとしているおしゃれで、そういうことをしなくても自然におしゃれな人っているじゃないですか。そつなく普段からおしゃれな人、そういうものを目指すような感じでしょうか。そうなっちゃったおしゃれとか、そういうものを芝居で目指していて、他の人にも求めているんですけど、自分がそれに到達するのが難しい。でも逆に言うと、普通に芝居しているとそこに到達する前にOKが出てしまったりと、なるべくそこに到達するまでOKを出さないとか、編集の時にそうじゃないところは切ってしまうとか、自分が良いと思う芝居を全員分切っていくなど、役者に対するビジョンはすごくありますね。 次のページ… 自分以外の役者が自分以上に輝いていないといけない(須藤蓮さん) 自分以外の役者が自分以上に輝いていないといけない ――今回、主人公の青年たちの恋愛の話ですが、女性2人の描き方もすごく印象的でした。物語としては脇役になってしまいますが、そこの描き方はどのように考えられましたか? 須藤蓮さん 『ワンダーウォール』という作品は5人のメインキャストで、優劣がないんですよ。そっからですかね。僕は役者で、脇役とかで出るわけじゃないですか。主演で出たこともありますが、普通に考えたら作品を動かしている人間に優劣はなくて、監督もキャストも画に映っている限り…という理想論があって、それをなるべく体現するようにしました。あと、青年たちの恋愛をわかりやすくまとめていて、ポスターにも女性2人は写っていないですけど、みーこと文江がこの映画にとって劣にあたるかと言ったら、決してそんなことはなくて、対等もしくはそれよりも輝いていて良いと思って、それはすごく意識しました。自分が監督・主演で描く分、自分以外の役者が自分以上に輝いていないといけないと思っていました。じゃないと、自分のエゴや自分を良く見せるために撮っている映画になってしまうので、それは嫌だなと思って。もちろん自分も頑張りますけど、自分以上にそこにちゃんと輝きがあってほしいと思いました。 “尾道・渡辺あや脚本・コロナ禍映画”だけでめちゃめちゃ激しく上がった気持ちに忠実に ――舞台として、尾道を選ばれた理由はどうしてでしょうか? 須藤蓮さん これも縁なんですが、ちょうど『ワンダーウォール』という作品の映画版の封切りが尾道で、コロナ直前の尾道映画祭で初めて僕は尾道へ行って、もちろんその時は映画を撮ろうと思って行ったわけではないですけど、そこに滞在している時にすごく居心地が良くて、シンプルにいいなって、帰りたくないなと思っていた時期がありました。その時は1泊の予定だったんですが、4、5泊くらいして帰ったんです。それを渡辺さんが見ていて、尾道が好きなんだなって提案してくださったというのもありますし、コロナ前の開放的な良い記憶がそこにあって、縁とか勘とかにすごく強く結びついて、尾道という場所を選びました。坂があってどうこうとかそういうのは考えていなくて“尾道・渡辺あや脚本・コロナ禍映画”だけで、映画撮ったことないけど、自分の中でとても盛り上がって(笑)、尾道で映画を撮ることに自分がめちゃめちゃ激しく上がったという事実に忠実に従ったという感じです。 ――実際に撮影を終えて、いかがでしたか? 須藤蓮さん もう最高でしたね!めちゃめちゃ良い所で、尾道の良い所を撮ろうと思って映画を作ったわけではないですが、めちゃくちゃ好きな場所ですね。なんでここにこんな文化的に豊かな場所があるんだろうって思うくらい豊かだし、気候も良いし、人もめちゃめちゃ良いし、単純に住む場所としてもとても良いんですが、やっぱり良いロケーションが多いですね。『逆光』ではなるべく、THE 尾道みたいなロケーション選びはしていないかもしれないです。尾道らしいよねというような場所よりは、僕のような旅人の目から見てここが良いと思った場所、歴史とか尾道の人たちの想いとか、そこから断絶した僕が行って良いと思った尾道を組み合わせて、それを尾道と呼ぶような、ある種乱暴な切り方をしているなと思います。本作を観て尾道に行きたいなと思ってもらえたら、それは本望ですし、結局行かないとわからないですよね。 公開する土地へ自ら行って、作品の良さを制作した熱量で届けたい! ――自ら足を運んで作品を伝えるスタイルが素敵です。そこに込めた想いを詳しく教えてください。 須藤蓮さん たくさんいろんな想いがあるんですけど、この映画ってほっといたら当たらない映画の作り方になっていると言いますか、タイトル『逆光』だし(笑)、脚本は渡辺あやさん・音楽は大友良英さんと2人を前に出して宣伝しようとしているわけでもなければ、そうじゃなくて映画が効率的に広がるっていうことを全く想定しないで、普通に良い役者だから撮る、良いロケーションだから撮るという普通のことを積み重ねて、ちゃんと成功に導く、そのことが最も豊かで面白いことが見られるっていう実験のようなイメージがありました。もちろん、なるべく多くの人に観てもらいたいですが、作品を曲げることは絶対にしない。作品が持っているピュアなエネルギーのようなものをなるべくそのままの形で届けるということが大切だったり、そのピュアなエネルギーを例えば東京から公開して、公開日に合わせて上手いこと積み重ねて、数字を重ねるようなやり方をした時に、この作品を作り上げる過程にあったスタッフと僕らが共有したエネルギーと、そのものすごい輝きみたいものを宣伝という過程において少しでも損なってしまうのが嫌だと思いました。 だったらその地へ行って本気で、僕がこの熱量で話すように同じ熱量で届けて、1つのインタビュー記事やパンフレット1つも徹底的に、ねじ曲がっていない普通のことをやるということをちゃんとやることで1つ成功するという前例みたいなものがもしあったら、インタビュー記事を読んだ人が僕もやってみようかなってなるかなと思って、そういう前例が欲しかったし、自分も見てみたかった。 あとは、コロナでzoomの舞台挨拶とか、『ワンダーウォール』の時はそれしかなくて、その時にも面と向かわないのが嫌だったんだと思います。いろんなzoomのインタビューを作ってそれを編集して人と会えないので粘土でアニメーション作って、それを届けることもやっていました。それはそれで経験としてはすごく良かったんですけど、本当は現場で映画を作って、直接会って届けてってことがやりたいんだけどなって思って、その反動ですかね。zoomで済ませることもできるんですけど、確実に損なわれているものがあると思って、それは結果というよりは自分の中にあって、そういうものを自分なりに確かめているような感じです。お客さんとの会話も楽しいし、一緒に作り上げるのも好きなんですよね。お任せするのももちろんいいんですけど、実際にその地に行くと手伝ってくださる方もいて、一緒にその地域での宣伝を考えてくれて、その宣伝は東京から名古屋に向かってこんな感じでって言うよりも絶対に強度が高いじゃないですか。その土地ならではのものも生まれてくるかもしれないし、人の声も聞きながらできるし、その力を信じています。 自分の想いを形にした映画『逆光』では、いまできるベストを尽くし、また映画を一緒に作り上げたみんなの想いを伝える須藤さんの熱量に心が動かされました。そんなこだわり抜いた本作では、尾道を背景に描く、個性的で魅力的な一人ひとりの登場人物の繊細な感情の描写にも注目です。行きたくなるような尾道の美しい景色、その場の空気、音、言葉にしなくても伝わってくる想いと、感情が揺さぶられる映画体験『逆光』。ぜひ、劇場でご覧ください! 映画『逆光』 名古屋シネマテーク他で6月25日(土)より公開! 監督須藤蓮 脚本渡辺あや 音楽大友良英 出演須藤蓮、中崎敏、富山えり子、木越明、SO-RI、三村和敬、河本清順、松寺千恵美、吉田寮有志 他 公式サイトhttps://gyakkofilm.com/ 『逆光』©2021『逆光』FILM. ※掲載内容は2022年5月時点の情報です。 ※新型コロナウイルスや天候の影響で、開催予定のイベントは、中止・変更になる場合があります。主催者の公式サイト・SNSで事前に確認して、おでかけください。