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大きなスクリーンでぜひ観てほしい、妥協できずにこだわり続けた音楽と映像美!

後藤さん カメラは『逆光』と同じく、須藤しぐまさんがやっていて、前作のカメラがすごく素敵で、天性のものだなと思いました。去年の柳ヶ瀬のイベントで隣りにいたのがしぐまさんでうれしくなっちゃって、ずっと話していました。映画は初めてなの?と話していたら、蓮くんといろいろ相談してやっているのが楽しいと話してくれて、2作目もやっているんですってその時に言っていましたが、『ABYSS アビス』もやっぱり素晴らしい!本当に海のシーンも・・千葉の海ですか?あれは、見たことのないような光の捉え方でしたね。

須藤監督 光の捉え方がものすごく上手なカメラマンで、美意識も高くて、手持ちで歩かせているだけで絵になり続けるので、むちゃぶりのしがいのあるカメラマンですね。彼のカメラワークもすごく独特で、手持ちでわざと波みたいな揺れを作ったりして、編集が大変なんですが、揺れているカメラと揺れているカメラをぶつけると、なんか没入感が出たりするんです。止まっている予想通りに動くカメラと違って、予想外の動きをするカメラは、編集の切り取る部分によって、形を変えたり、曲がる素材のようで、編集頼みの撮り方でもありますが、面白いです。

後藤さん 編集には、しぐまさんも入っているんですか?

須藤監督 色を作っているのは彼なので、一緒に作っていきますね。ものすごく感覚が良い人なので、いないと困りますね。

後藤さん この情報量は大きな映画館で観るのがやはり良いですね。

須藤監督 音や色も1回作った後に何回か作り直していて、妥協できなかったです。後藤さんに六本木で観ていただいた試写からまた作り直していて、細かく磨き直すような作業をしていました。言葉や音がちゃんとクラブの音をすり抜けて、お客さんに届くのかなど、細かい部分も気になっちゃって、自分の思い描いた理想を目指して走るよりは、嫌だと思う部分を取り除く作業でした。最初、素材を並べると、音もあまり良くないし、編集も良くないし、蕁麻疹が出るくらいのストレスなんですけど、その中で自分にとって余分な要素を削いでいくような感じです。

生きづらい世界をちゃんと辛く描くことで、前が向ける

後藤さん 映画監督として若いのにこだわりも含めて、素晴らしいなと思います。今回、ロイヤル劇場で今日から『トレインスポッティング』、昨日まで大島渚監督の『青春残酷物語』のデビュー2作品目の映画を上映していて、大島渚監督は、詳しく言うと3作目の映画になりますが、ちょうど1本目は短編の『愛と希望の街』があって、『逆光』と『ABYSS アビス』がある蓮くんと少し似ているように思います。『ABYSS アビス』と『青春残酷物語』のベースは同じで、日本がこんなに生きづらい、社会的に若い子がこんなに社会の犠牲になるようなところなど。

須藤監督 『青春残酷物語』は、学生運動が真っ只中ぐらいに撮られた作品かと思いますが、すごくオマージュされている作品でもあって、りんごをかじるシーンは、僕がいま一番好きな中国のビー・ガン監督の映画の中でもオマージュされていて、本当にいろんな映画に出てきます。りんごをかじりながら、学生運動がいかに虚無に向かっていくのかを語っているシーンがありますが、映画なのに無意識に観ている人を導ていていますよね。

後藤さん 1960年の作品ですが、大島渚さんも非常に映画作りにこだわって、いろんな要素を取り入れて、新しい映画を発信した流れが、須藤蓮監督にも脈々と受け継がれていて、映画界を変えるぐらいの気合いをこの2作で感じているんですよね。『青春残酷物語』が当時、大ヒットしたんです。『ABYSS アビス』ももっと多くの人に観てほしいですね。妻と『ABYSS アビス』を観て、その時に「今の20代ってこんなに辛いのか、生きたくないぐらいにがんじがらめで、どうしたらいいのかわからないと思っているのが本当に辛かった」と言っていて、その瞬間は僕にも伝わったし、観る人にも伝わる映画ですね。

須藤監督 はっきり言うといま、社会にどん詰まりのような雰囲気があって、そういう時期に自分がどういう映画を観たいかなと思って、最後を持ち上げたようなエンディングよりは、ちゃんと1回底まで見ないと、上がってこられないような気がしました。

後藤さん 辛い映画をちゃんと辛く作るところが素晴らしい。

須藤監督 僕の好きな小説家の言葉で「二流の小説は、観客をエクスタシーに持ち上げていくんだけど、本当の作品はそう見せかけて、気づいたら全身に毒が回っているような作品が本当の文学だ」みたいな言葉がありますが、そこに感銘を受けて、いつかそういうようなものを目指して作品を作りたい、美しさで誤魔化しながらもなんか毒のあるような作品が好きですね。文学を読んでいる時の呼吸の感覚って、普段自分が生きている世界とは違って少し呼吸が深く感じられて、安心感がある。現実世界と違う空気が流れたりする時があるじゃないですか、人間には、感情の筋肉みたいなのがあって、僕たちの知っている肉体的な筋肉じゃなくて、いい映画を観た時に体の中を巡っていく謎の筋肉のようなもの。朝に散歩をするように、感情の筋肉を動かすことで、生きるということに変化を加えていくような、そんなことが1つの芸術の役割のように思っています。そういうものに僕も救われてきました。僕の世代って好きなものしか選ばなくなっていくので、知らないものとの接触がなくなっていくんですよね。

後藤さん 新聞もそうですよ。見たくない記事もありますけど、隅っこに載っていると気になって思わず読むこともあります。自分が求めてないものとの出合いも大事ですよね。

須藤監督 自分が求めてないものが正面からぶつかってくることが、文化であり、社会であり、恋愛であり、生きるってことだなと僕は思うんですけど、そういうことが生きていてなかなかないので、それに対する危機感はあります。このままだと、自分の心地よいものだけ摂取して、ほどほどの薄っぺらい人生で死んでいくんだなと、そういう危機感がなぜかあって、よくわからないものにぶつかってみたり、その結果生まれた作品でもあるのかなと。

もう一度観返したくなる!美しく印象的だった“海中”のシーン。実は…ルミといたのはお兄さん?

後藤さん 本作1つのポイントでもある“海の目と目が合うと死んじゃうよ”って言葉は、一般的に考えると、子どもを海に行かせないようにするために言っていたのかと思いますが、蓮くんとしては海をどう捉えていたのでしょうか?

須藤監督 目は扉のようなイメージで撮影していました。潜在意識のような、海が精神世界のようなもので、瞑想している時って、波のようにゆらゆら揺れて、沈んでいったりするじゃないですか。自分の肉体を超越した流れって、ものすごい多幸感にあふれながらも同時に地獄のようなものかなと思って。自然がそうで、ものすごく豊かで幸せを与えてくれるような時もあれば、夜の崖のように死を感じさせたりもする。全く同じ場所であるということが憑依一体であり、同時性がある。人間が考える幸福と地獄ってはっきり分かれると思いますが、そうではなく、同時的で人間の感覚を超えた流れが存在していて、そこにアクセスする扉みたいなものが海の目なのかな。見えてしまうと、すごく幸せでもあり同時に死を感じるような、そういうイメージでした。

後藤さん 海を介してお兄さんを理解していく、海への想いを聞いてより沁みますね。

須藤監督 人間の体には液体があるじゃないですか。振り付けを覚えて踊る能は、同時に体が自動に動いたり、オートメーションのような、その場で踊っているようなイメージがあって、そういう自分の体の中にある液体が海の液体と響き合うことで、オートマティカルなものを帯びていくように思いました。

後藤さん 1度観た時はわからなかったんですが、海の中でルミさんと抱き合っているのは、ケイくんじゃなくてお兄さんなんですね。

須藤監督 だんだん兄と同化していくような話でもあるので面白いかなと。あまり説明してこなかったんですが、元々はルミがいなくなって崖の上で起きるシーンがありました。そこはカットしたので、伝わりづらかったのかもですが、海のシーンは、ルミとケイが邂逅しているのではなく、海という兄が死んだ場所で喪服を着て踊っているわけで、祈りや浄化みたいなものを捧げた結果、海の中に吸い込まれていった。きっとルミは海の目を見たんじゃないかなと思っています。吸い込まれた先には、ものすごく生々しく輝いている生のシーンながら、兄・ユウタの死があり、生と死が混在したような世界で、最も美しく映画の中で輝くようにしたくて、そこの比較として描いたのが都会の海のクラブで暴れているシーンです。

後藤さん キーンって音もしますよね。

須藤監督 あれは、現実と切り離された時にそういう音がするなと思って、例えば今、僕の携帯に家族が亡くなったと連絡が入ったとしたら、この世界から一気に切り離されるじゃないですか。そういう時にキーンって音が鳴っている気がして、そういう時って、この会話の喜びだったり、この光の色だったり、感じられなくなって、現実から切り離されて小さくまとまってしまう。そんな時に鳴っている音を鳴らしてくださいってむちゃぶりを投げていました。

映画館は、体験として最先端のものを届けていける場に変化していくタイミング

お客さん 須藤さんの作品が初めてで、第1作目としては新人の人ではない作風だなと思いましたが、どんな方に影響されているのでしょうか。

須藤監督 元々映画監督を目指していないため、他の映画監督さんみたいに数多くの作品を観ているわけではなく、そのベースで作っていますが、『ABYSS アビス』で1番影響を受けたのは、韓国の巨匠イ・チャンドン監督の『バーニング』や、ビー・ガン監督の『ロングデイズ ・ジャーニー この夜の涯てへ』と、映画『COLD WAR』など、少しビターな作りの大人の映画とか、香港のウォン・カーウァイ監督など、アジア映画にプラスしてヨーロッパの巨匠の方の影響を僭越ながら受けさせていただいています。ラストシーンがバッドエンドな文学が大好きで、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』とか、スタンダールの『赤と黒』などもそうです。坂口安吾の『堕落論』を読んだ時、戦争が美しいと平気で書く当時の文学者に、すごい覚悟と迫力、感動を覚えました。最近だと、宮崎駿監督の最新作のどあたまのシーンの言語化させない迫力、即こっちの深層心理に入りこんでくる、そういうものを観ると感動してしまいますね。そういう作品を観る度に言葉にできず、感動してきたので、そういうものをいつか作りたいと思いながら、作っています。

お客さん 後藤さんには、柳ヶ瀬の衰退の話がありましたが、新聞社の方としていかがでしょうか。

後藤さん 8年前に映画部を始めたきっかけは、私自身が岐阜新聞の東京支社に長年におりまして、各エリアの新聞社からまたこの映画館がつぶれたとか、またこの商店街がだめになったなど、いろんな話を聞きます。新聞社は街の中心になって、メディアとして長年やっておりますが、新聞社にいながら、地元のメディアとして何ができるんだろうって考え、ここ岐阜の柳ヶ瀬には、劇場通りがあり、映画文化がある、映画館が消えてしまうことだけはと思って。映画館があるとないとでは、絶対違うことだと思います。今はシネコンという、素晴らしい映画を簡単に届けてくれる映画館もありますが、商店街にある、この劇場を背負った文化がこの街にあるということが重要で、何かお手伝いできればと思ってやっています。時の流れによって、リニューアルすることで、それなりに息を吹き返したりすることもありますが、ロイヤル劇場はやっぱりまだ日本にずっと残すべきだという思いがありますし、映画人の方と語ることによって、映画を通じてどのように日本を変えたいとか、そういう気持ちを通じ合わせることで結果、街の文化のプラスになっていくんじゃないかなと思っています。

お客さん いい映画を観させていただきました。前回、『逆光』も観ておりますが、ドキドキしていました。須藤監督は表現者として、様々な才能を発揮しながら作っていますが、それだけでなくて、映画というその役割みたいなものを何か変えようとするような思いがたくさんあるのかなと思いました。クラウドファンディングもしておりましたし、一人でもいく勢いがすごく魅力的。きっと敵もたくさんいると思いますが、そういうところに突っ込んでいくのがしびれるなと思っています。今後も頑張ってください!

須藤監督 僕の世代で映画市場のルールを知っている人があまりいないんじゃないかなと思います。そんな中で僕が映画を作って宣伝をしたいってなって、僕はルールを勉強して、これってよく考えたら結構この先しんどくないかなってことに当たり前に気づきました。元々役者なので、いい映画に出たい、アート的な作品にも出ていきたい、それで生活していきたいっていうのがベースにあって、それを実現するのがなかなか難しいことも理解していく中で、時代がものすごいスピードで変わっていますので、映画という媒体がどんな価値を人に提供できるのかを考えざるを得なくなってきた。

戦いを挑みたいわけではなくて、映画を好きになった身としては、何ができるのかなってことを考え、それに対して結果戦うことになっても、それは戦えばいいのかなって思っています。やっぱりNetflix、Amazonプライムは便利で、その素晴らしさを否定することもないのですが、僕の世代の若者にも映画文化を届くといいなと。昔は最新の情報を映画のメディアを通じて届けていたんだろうなと思いますし、映画館は、体験として最先端のものを届けていける場に変化していくタイミングなのかなとも思います。情報価値より、こういう映画を観て、こういう気持ちになりたいという体験の価値が伝わった時に、お客さんの心が動く。そういうところにうまくアクセスできたら、僕の世代の人たちも映画館に戻ってくるんだろうなと思っていて、そういう場にできたらなとの思いも込めて、『トレインスポッティング』という映画を選定しました。映画館で観ることが体験として面白そうで、忘れられないものになるのかなと思います。変わるということは必ずしも悪いことだとは思わないので、自分も映画という表現にこだわりを持っていますので、僕らの世代でできることは大人の力を借りて、なるべく戦わずにやっていきたいなと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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映画『ABYSS アビス』が絶賛公開中!岐阜のトークイベントに大森南朋さん、須藤蓮さん、庄司信也さんが登壇!

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KELLY Editors

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