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【12/8公開】ある特別な問題を抱える女性の半生を描いた映画『市子』戸田彬弘監督にインタビュー
#映画

2023.12.9sat

【12/8公開】ある特別な問題を抱える女性の半生を描いた映画『市子』戸田彬弘監督にインタビュー

2023年12月8日(金)より、映画『市子』が公開。原作は、監督の戸田彬弘が演劇のために書き上げた「劇団チーズtheater」の旗揚げ公演作品『川辺市子のために』。「釜山国際映画祭」にも出品された本作は、「生きること」をあきらめなかった川辺市子の半生を描いた物語です。

主人公の川辺市子を演じるのは、「第40回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞」を受賞した杉咲花さん。市子の恋人役は、若葉竜也さんです。

今回、『市子』の監督を務めた戸田彬弘監督にインタビュー。自身が脚本を執筆した舞台作品の制作秘話や、映画化するための苦難などのお話を伺いました。

作品のアイデアは自分自身の経験がルーツ

――この物語を作るにあたって、どのようにしてアイデアが膨らんでいったのか。そのルーツを教えてください。

戸田監督 2015年に書いた舞台の本なのですが、少し前から、Twitter(現X)やFacebookが一般的になってきて、大学の後輩や一緒にお仕事していたスタッフさんが、若くして病気で亡くなる経験が、自分にもありました。でも、SNSでは、フォローし合っている方の”お誕生日です”みたいな通知が出てくるじゃないですか。それを何度か見かけて、その方のページに飛んだら、ネット上ではまだ存在しているから、「誕生日おめでとう」という言葉が並んでいて。
亡くなったことを知らない人たちからすると、その人がまだ生きていることになっているという状態に、違和感を感じました。もういなくなった人のことをいるとされているネット上の空間に、気持ち悪さを感じたのが発端です。反対に、存在しているのにしていないものとされている方もいるなということに、自分の中でリンクしていって、そういう方の人生というのは、どんな辛さや難しさがあるんだろうなと。そんなことを描いてみようと思ったのがきっかけです。

――実際にあるニュースを基に取材などをして物語を紡いでいったのではなく、自分の中で物語を作り上げて行ったのでしょうか。

戸田監督 この作品に関しては、完全オリジナルで、モデルにしたケースが特にないです。僕が小学校2年生ぐらいの時、同級生の名前が変わったんですよね。苗字ではなく、名前が。当時は子どもだったので特に不思議に思わず、ちょっと触れちゃいけない雰囲気なのかなと、なんとなく感じてはいつつ、あまり気にせず一緒に遊んでいました。今思えばそういう体験みたいなものは、多少入っているかもしれないですね。子どもの頃に見た、ある種の貧困的な雰囲気というものを、思い出しながら書いていきました。

――ある意味、監督の経験値とフィクションを描いた作品なんですね。
戸田監督 そうですね。

一度は断った“映画化”。2度目の正直で実現することに

――今回、舞台を映画に変換する際のポイントになったアイデアはあったのでしょうか。

戸田監督 僕は大学の演劇学科出身で、アングラ(アンダーグラウンド)と呼ばれる類の演劇を創っていらっしゃった先生たちがいる学校だったので、物語主義の作品とは違うスタイルを学んでいました。前衛的というか実験的というか。寺山修司さんの作品などを観て勉強しましたね。唐十郎さんが、特任教授として来られたりとか。そういうことを大学では学んだので、演劇としての表現に特化した本でした。
映画化するにあたって、原作そのままの構成を置き換えてやることができなかったんですよ。シナリオにするには、だいぶ解体しなきゃいけなくて。表現方法を変えないと成立しないだろうなと思っていたので、そこはすごく苦労したんですよね。基本的には、素舞台(※)で、俳優がモノローグをメインに喋り続ける舞台なので、映画で喋り続けても仕方がないんですよね。セリフで書かれていることや、そこで発生する空間を、どのように映像として解体していくかとか、どうやってカメラのポジショニングをすれば舞台同様のニュアンスが出せるのかとかは、結構苦労しました。

――解体してまた構築しないといけないということもあると思いますが、そういう意味では脚本にしていく作業が意外と大変だったのでしょうか。

戸田監督 そうですね。 まず2015年に初演した段階で、映像化のお話を軽くいただいたことがあったんですよ。でも、その時にはちょっとできないと思って、その話はそのままなくなったんです。でも2018年に、『川辺市子のために』の続編を上演することになって、それを新しく書いたりしている時に、小説化ならできるなっていうプランが見えた時があって…。
一旦、この戯曲を小説としての構成で考えて、その小説を映像のシナリオに持っていけば、映画化できるかなっていうアイデアが、なんとなく芽生えました。そして、また今回のプロデューサーからタイミングよく映画化の話をいただいて、やれるんじゃないかなっていうのがあったので、書くことにしました。そこから苦労はしたんですけどね。でも、アイデアが1個見つかったので、なんとかなるかなという感じはしました。

――演出などは舞台とは、全く異なるのでしょうか。
戸田監督 ストーリー自体は、ほとんど一緒です。映画にしかないオリジナルストーリーを入れざるを得なかったところはありました。市子の母親(中村ゆりさん)の現在のシーンはなく、舞台上では、過去の回想しか無くて、現代パートは行方不明のままなんです。それを入れないと、舞台で描かれているあるシーンを描けなかったので。現在のお母さんも出そうかって話を、脚本家の上村奈帆さんと話しながら制作していきました。

――主演の杉咲花さんに直筆の手紙を書いたというお話をされていたと思いますが、監督の中でこれだと思ったポイントとは。
戸田監督 もちろん、お芝居はずっと前から観てました。素晴らしい表現力のお持ちの女優さんだなというのは思ってましたね。原作もそうですけど、この作品は東大阪が舞台で、台本も全て関西弁なんです。そこの地域性みたいなことは、リアリティを担保する上でも、関西ロケでやりたいって、初めからプロデューサーに言っていました。
キャスティングの際にも、「ネイティブな関西弁を喋れる人がいいね」という話はありました。市子は、高校生から30歳手前ぐらいまでの役を演じなければならない台本だったので、20代前半から半ばくらいの方が1番いいんじゃないかって考えていました。その時に、杉咲さんが『おちょやん』を演じられていたのを思い出しました。
朝ドラの方言指導をやられている方が、杉咲さんはすごく耳が良くて、関西弁のうまさも朝ドラ歴代1位だったっていう話を人伝に聞いたので、彼女ならネイティブのように関西弁で演じられるんじゃないかなって。年齢やビジュアル、表現力の幅という意味でも、全てにおいて合致したっていうのが杉咲さんでした。それで手紙を書いて、ダメ元オファーをさせてもらったんですよね。

――杉咲さんが演じられてきたこれまでの作品とは、結構違う作品だなと思うのですが、監督の中で違った一面を引き出したいっていう気持ちもあったのでしょうか。
戸田監督 『トイレのピエタ』や『湯を沸かすほどの熱い愛』、瀬々敬久監督の『楽園』も観て、作品によって全然違うなと感じていました。『楽園』を観た時に、杉咲さんの目の中にある引力みたいなのをすごく感じたんですよね。この映画も、市子は自分で何かを語っていく側ではないので、目の底にあるエネルギーというか、強さというか、深い引力みたいなものを表現できるだろうなと思って。それとはまた別で、陽気な印象を与える、かわいらしいあどけなさを感じる役もたくさん演じられていたんで、芝居の幅が広いなと思っていました。

――実際、両極端を演技するっていう俳優さんとしては、どんな印象だったのでしょうか。

戸田監督 杉咲さんからは、オンとオフみたいなものがあんまりない印象を受けたんですよね。今回は現場入りも早く、クランクインする1週間前くらいから、一緒に関西に入ってくれたんです。ロケハンも一緒に来てくれました。子役から撮影したのですが、子役の芝居も見に現場に来ていたりとかして。そこから4日か5日くらい後に、高校生のシーンで彼女はクランクインしたんです。
コミュニケーションをとっていた時と、芝居をする時のモードが変わったかと言われれば、そういう感じはあまりなかったです。ニュートラルに自分と役の間で芝居ができる方なのだと思います。

演劇にはないそれぞれのシーンで流れる“音”が持つ意味

――作中で、市子の鼻歌とか自然の音、ピアノの演奏と音に、引きずり込まれまして、音楽を挿入する際に意識したこととは。

戸田監督 鼻歌に関しては原作にないです。脚本を作っていく上で、母と娘の繋がりを入れ込んでいきたいと思って。鼻歌はありなんじゃないかなって。『にじ』を選曲したのは台本完成の直前でした。
原作舞台では、ラストに一曲流れるだけで、その他は音楽が流れず、セミの音などの環境音で構成していました。音楽家の茂野雅道さんとも「音楽は少なめの映画の方がいいだろうな」っていう話をしていました。映画のラストシーンは絶対に音楽が欲しいというのは言っていて、楽器についてはチェロが良いじゃないですか、みたいな話はしましたね。低音の重さみたいなものは、作品の意味合いとしていいんじゃないかなって。

――舞台作品名は『川辺市子のために』ですが、映画版タイトルでは『市子』と省略した理由とは。

戸田監督 舞台の時は、結構苦しんで書いていて、稽古が始まった初日は、台本が1文字もなかったんですよね。毎日書きながら稽古して、本番1週間前ぐらいに書き終えたんです。市子のことを、僕自身、よく分からなくて、なかなか書けない状態だったので、彼女(市子)のために頑張ろうという意味で、『川辺市子のために』という題名になったんですよ。だから、自分の個人的な感情が、タイトルにそのまま出てしまっていて。でも、映画化する時には、期間が空いていて、客観的になれたので、彼女が道に逸れることをしてしまっている事実は、すごく重要なことだと思いました。”ために”という言葉を付けると、やっぱり彼女に加担してしまうなという気がして…。この言葉を省きたいって言ったんです。シンプルに彼女の物語なので、『市子』っていうシンプルにそれだけで行きたいんですっていうのをプロデューサーに伝えました。

※素舞台…舞台美術など大道具がない状態の舞台

あらすじ

川辺市子(杉咲花)は、3年間一緒に暮らしてきた恋人の長谷川義則(若葉竜也)からプロポーズを受けた翌日に、突然失踪。途方に暮れる長谷川の元に訪れたのは、市子を捜しているという刑事・後藤(宇野祥平)。後藤は、長谷川の目の前に市子の写真を差し出し「この女性は誰なのでしょうか」と尋ねる。市子の行方を追って、昔の友人や幼馴染、高校時代の同級生…と、これまで彼女と関わりがあった人々から証言を得ていく長谷川は、かつての市子が違う名前を名乗っていたことを知る。そんな中、長谷川は部屋で一枚の写真を発見し、その裏に書かれた住所を訪ねることに。捜索を続けるうちに長谷川は、彼女が生きてきた壮絶な過去と真実を知ることになる。

3年間共に過ごした恋人からプロポーズを受けた翌日に、姿を消した市子。彼女が抱える想像を絶するある特別な理由とは。その真相は、ぜひ劇場で確かめてください。

市子

公開日
2023年12月8日(金)
監督
戸田彬弘
脚本
上村奈帆 戸田彬弘
音楽
茂野雅道
出演
杉咲 花、若葉竜也、森永悠希、倉 悠貴、中田青渚、石川瑠華、大浦千佳、渡辺大知、宇野祥平、中村ゆり
公式サイト
https://happinet-phantom.com/ichiko-movie

©2023 映画「市子」製作委員会
※掲載内容は2023年12月時点の情報です

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【12/8公開】ある特別な問題を抱える女性の半生を描いた映画『市子』戸田彬弘監督にインタビュー

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Yuna Hoshikawa

Yuna Hoshikawa

愛知県出身。まだまだ未熟なひよっこ編集部。ファッションと旅行が好き。暇を見つけては、お気に入りの洋服を着て、一人旅へ出かけるほど。何事も、思い立ったらすぐ始める派。

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