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介護の限界を迎えた斯波に対して司法は何ができるのか、とても難しい問題

湯原教授 長澤さんは、検事の大友役を通じてこの問題をどう考えればいいのか?映画の主題歌にもなっている“そうであろう”という意味の「さもありなん」という言葉もありますが、本当にそうでいいのか?検事の貫く正義を問いかけてくださっていました。斯波に対して、どのような刑罰が必要かと考えられますか?

長澤さん とっても難しい質問ですが、斯波がした行為というのは、やはり許されるものではないと思いますし、厳しい刑罰を受けるということは必要なのかなと思います。だけど、斯波自身が自分の犯したことに対して、これは“救い”だと、彼の正義を元に語っていて、法的な刑罰を与えても、斯波にとって罰として捉えられるのが難しそうに思います。斯波自身も父親を憎んでいたわけではなくて、すごく大切にしていた存在であったからこそという、彼の正義があるという部分もまた難しくて、斯波と同じような事件が年々増えているようなことを聞くと、やはり解決するにはとても難しい問題だなと思います。

そういったところも踏まえて、悪いことをしたから罰を与えるだけではない考えを、今後考えていかなくてはいけないのかなと思いました。一言でこうしたほうがいいというようなはっきりとした答えは言えないですが、そういったこともまた変わっていくのかなと思いますので、都度考えていかなくはいけないなと思いました。

湯原教授 ありがとうございます。本当にすごく難しいことを聞いてしまったなと思いますが、斯波は“救い”だと語っていて、自分のしたことに対して、罪悪感を表に出していません。原作でも繰り返し問われている部分になっていて、斯波がこのままかなり重い刑でずっと刑務所にいるようなことがあった場合に、斯波はこの時間をどう過ごすのか、どういうふうに居続けるのかとも思います。司法が斯波に対して、何ができるのか、本当に長澤さんがおっしゃったように難しい問題で、個別に考えていかなければならない問題だと思います。

みなさんは映画を観たので、斯波の背景を知り、考えを知り、その中で考えているかと思います。でも先ほど新聞の話もありましたが、新聞ではやったことや内容があり、それに対してこういうことになったという情報だけなので、その背景にも目を向けてほしいと思います。

介護の課題をたくさんの人と共有していくことで、救われる命が増える可能性がある

湯原教授 松山さんは、プロセスをたどりながら、愛する父親に対して犯行を行い、“救い”という考え方で犯行を重ねていく役でした。介護者が直面する困難が様々な角度から描かれていて、特にここが大事だとか、みなさんにぜひ知ってもらいたいとシーンを教えてください。

松山さん 異常者ではないというのを大事に、斯波はみなさんと何も変わらない、僕とも変わらないということをすごく意識しました。柄本明さんが演じるお父さんと斯波は、母親や親族もいない親子で孤立化しやすい状況ではあったのですが、小さい頃から男手一つで育ててきてもらったのだから、今度は自分が返す番だと一生懸命介護をしていく。その中で限界がきてしまって、選択肢の一つでもあった生活保護を申請しに行くが断られてしまう。そこで残った選択肢というのが、柄本さんが伝えていた「自分を殺してくれ」という言葉だった。

外側から見ていると、法律やルール、社会の常識でしか物事が見づらいので、事件ということだけを見て、何でこんなことになったんだろう、誰か助けてあげれば良かったじゃない、助けを求めれば良かったじゃないと、思ってしまうと思いますが、そうではない状況が内側にあります。立場によって見ている景色が全く違うんですよね。それを防ぐために斯波ができたことは、誰かとこの話を共有する、介護をしていることを共有することだったり、どういったセーフティーネットがあるのか調べることだったりと、選択肢を持っといてほしかったなと僕は思いますね。

ただ、それも結局余裕のある人ができて、余裕がなければそれすらもできない、本当に今目の前にあるお父さんの介護で精一杯になってしまう。ある意味子育ても一緒だったりすると思います。周りの人たちが孤立化させないというのもまた一つ大切になってくる。
みなさんも介護の経験をされたりとか、これから介護の仕事に関わってくることになるかもしれませんが、こういう素晴らしい大学で学んでいらっしゃるみなさんですから、知識を持って目の前にある介護の課題をたくさんの人と共有していくことで、介護する側も介護される側も救われる命が増える可能性があります。学んだ人だけが見えている問題ではなくて、たくさんの人が見ていかなくていけない課題で、そういうところが大事だと思いました。

湯原教授 ありがとうございます。本当に異常さがないというところは大事なことで、私も何人もの介護殺人の加害者の方に出会ってきましたが、みんな一生懸命に介護しようと思っていて、普通の生活をしていたけど、こうなってしまったという人でした。私もこの斯波が誰かと共有できる人がいたら良かったなと観ていてつくづく思いました。最後にスライドでまとめたいと思います。

一人でも多くの人がこの社会問題に関心を持ち、個として考えること

――斯波の第一の事件を防ぐとしたら、どんなことで防ぐことができたのか。

湯原教授 まず、斯波の第一の事件を防ぐとしたら、どんなことで防ぐことができたのか。介護殺人の中でも防げる事件と防げない事件があると思っています。今回のこの事件は非常に難しいです。なぜかと言うと、斯波はできる限りの努力をし尽くしていた。介護殺人の法廷でも「自分は精一杯できることをやったので、一体何を反省したらいいのかわからない」と述べる被告がかなりいます。父親が息子へ殺してくれと頼んでいる。介護当事者の努力による状況打開は見込めない、父親がいくら努力しようともこの状況が良くなったかと問われると非常に難しいと思います。

かなり貧困な状況でしたので、介護サービスを使うことに関してもサービスの利用料が払えない状況で、使用できなかったのではないかと。高齢者への虐待防止法、障害者への虐待防止法などもあり、もし斯波が虐待していて通報されていたら、外部の支援が入りました。でも今作では、そういうことはしていないため、孤立していったのだと思います。唯一斯波が助けを求めたのは、生活保護の申請へ行った時、この時に斯波は助けを求めていました。でも、あなたは働けるでしょと言われてしまった。生活保護の行政からしたらしょうがなかったと言われるかもしれませんが、ここでみなさんにぜひお願いしたい。支援者としてこういった方をサポートする時は、目の前にいる人の背景にぜひ思いを馳せてください。なぜ働ける人はここにいるのかなど。介護者が力尽きないようにする、私は支援者として行った斯波のケアはとても素晴らしいと思いました。自分がやってもらえなかったことをやっている。葬儀での介護者への言葉がけもよく頑張られました。これは介護者としてかけてもらいたい言葉だなと思います。

そして、要介護者のみならず、介護者への支援が必要だということをぜひわかっていただきたいと思います。介護者自身の健康は大丈夫か。きっと斯波もこの介護が始まる前は東京で働いていた普通の若者だったんでしょう。介護者が大切にしたい自分の時間や大切な人と過ごす時間のためにも、良くなってほしいなと思います。介護者自身の人生、例えば、あのままお父さんを看取ったとしても斯波は仕事をしていないし、お金も持っていません。これからどうやって生活していくのか、とても辛い状況であります。それもぜひ気にかけるということが必要です。

介護者を支援するための法律は、全国的なものは今はまだないのですが、条例が立ち上がっています。何よりも大切なのは、このような高齢者の調査、介護者支援が充実する法的なものもさるものながら、一人でも多くの人がこの社会問題に関心を持ち、個として考えることです。今回の『ロストケア』でメッセージを伝えることができ、本当に期待しています。みなさま、ありがとうございました。

映画『ロストケア』を通して、高齢者問題や介護殺人など、どう向き合っていくべきなのかと公開特別授業で呼びかけました。校内には、大きなパネルも設置され、公開特別授業後には多くの人が撮影する場面も。今後の課題として、介護問題について深く考えることのできる授業となりました。決して他人事はない、今考えるべき社会問題に向き合った衝撃の感動作。柄本明さんが演じる父と、斯波の迫真に迫る親子の葛藤するシーンにも注目です。目を背けず、社会問題としっかり向き合う本作をぜひ劇場でご覧ください。

STORY

早朝の民家で老人と訪問介護センター所長の死体が発見された。捜査線上に浮かんだのは、介護家族に慕われる献身的な介護士・斯波(松山)だった。検事の大友(長澤)は、斯波が勤める訪問介護センターで老人の死亡率が異常に高く、彼が働き始めてからの死者が40人を超えることを突き止める。真実を明らかにするため、斯波と対峙する大友。斯波は自分のしたことは「殺人」ではなく「救い」だと主張する。彼が多くの老人を殺めた理由や、彼が言う「救い」の真意とは何なのか?そして彼女は、法の正義のもと斯波の信念と向き合っていく―。

ロストケア
ミッドランドスクエア シネマ他で絶賛公開中!
監督 / 前田哲
原作 / 葉真中顕「ロスト・ケア」(光文社文庫刊)
主題歌 / 森山直太朗「さもありなん」(ユニバーサル ミュージック)
出演 / 松山ケンイチ、長澤まさみ、鈴鹿央士、坂井真紀、戸田菜穂、峯村リエ、加藤菜津、やす(ずん)、岩谷健司、井上肇、綾戸智恵、梶原善、藤田弓子、柄本 明 他
公式サイト / https://lost-care.com/
©2023「ロストケア」製作委員会  


※掲載内容は2023年3月時点の情報です

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日本福祉大学×映画『ロストケア』公開特別授業に松山ケンイチさん、長澤まさみさん、鈴鹿央士さん、前田哲監督、原作者・葉真中顕さんが登壇!

WRITER

Mai Shimomura

Mai Shimomura

岐阜県出身。スタジオやブライダルでの 撮影経験を6年経て、編集者へ転身。 カメラと映画が好きなミーハー女子。 素敵な出会いを写真に記録しながら、 みんなの心に届くモノを発信したい。

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